
姉さんの「友人」を名乗る奴相手は注意するようにしていた。
かつて、姉さんが小説家として有名になってから、態度ががらりと変わった奴がいたからだ。
姉さん自身はその事をあまり気にしていなかったようだが、俺はそうはできなかった。姉さんが有名になってからと言うもの、あの女の態度ときたら酷かったから。
多分だけれど、あの頃、すでに俺の異能は発現しかけていたのだろう。もしかしたら、発現していたのかもしれない。けれど、それは誰にも、俺自身すら気づくことはなかった。
どちらにせよ、あの自称姉さんの「友人」は、決して完全幸福な「流れ」はつかめない。完全に、徹底的に不幸だけにすると姉さんが心を痛めるだろうから、手加減してやっているだけだ。そういう「流れ」にはならないようにしてやっただけ。姉さんの慈悲に感謝するがいい。
そう、だから、姉さんが高校生だった頃、「お友達なの」と言って何人か連れてきた時も最初は警戒した。
以前のあの女のような、姉さんの名声に群がるような輩ではないか、と。
実際は、違った。
あの人達は、信頼できる人達だった。
姉さんが「夢咲 零羅」だからじゃなくて、姉さんと言う人間そのものを見てくれている人達だった。
姉さんが有名になってからと言うもの、そういう人間は珍しかったから、きちんとその人達の顔も、名前も記憶した。
特に、鰐塚 文雄さん。この人は信頼できる。
男性という事で恋愛面を心配したが、完全に杞憂だった。
まぁ、「夢咲さんは友人としてはともかく、恋人としてはない。絶対ない」と言い切るのはそれはそれでどうかと思ったが、姉さんも笑っていたから問題ないのだろう。
姉さんが「そうね、まずは文雄君が攻めか受けか判断してから」って言ってた気がするけど聞かなかった事にした。鰐塚さんもそうしといたほうがいいと思う。精神衛生面的意味合いで。
姉さんが死んだ。
くだらない、本当にくだらない私怨に巻き込まれて。
姉さんは誰もかれも傷ついてほしくないと願っていた。
だから、その為に動いて、結果的に殺された。
許せない。この世の誰もが、姉さんもが許したとしても、俺はあの女が許せない。
誰も傷ついてほしくないという姉さんの、死者の願い。それは尊重され、真実は隠される事となった。
姉さんを殺したあの女は、ひっそりと刑務所に入れられて、これから報いを受けていく事になる。
それでも、足りない。
姉さんを殺した報いが、たったあの程度で許されるものか。
その報いがどのようなものであるのか、その本質に気付いておらず勝ち誇っているあの女に、もっと徹底的な絶望をたたきつけたかった。
そういう「流れ」にしてやりたかった。
悔しい、実行できないのが、悔しい。
姉さんの願いは尊重するけれど、それでも、もっと強い報いを受けてほしいのに。
俺が異能を使うと、おそらくバレてしまう。
アーキナイトはもう俺の異能を知っていて、「使いようによっては世界への影響がシャレにならない故、気軽に使わないように」と釘を刺されてしまっている。今、あの女が絶望するような「流れ」になるようにしてしまえばバレるだろう。
それでも、何か。
何か、別の方法で。
あの女に、報いを…………
「自分で、調べる……夢咲さんの遺志で、事実が公表されないのだとしても。せめて、俺としては死の理由くらいは、知りたいからね。彼女には悪いが、引きずり出させてもらう」
……ごめんなさい、鰐塚さん。
この発言を聞いて、「チャンスだ」と思ってしまった。
鰐塚さんが、真実へと辿り着けて、それを記事にしないのだと、しても。
彼が真実へと辿り着けたのならば……あの女を、絶望させるチャンスがある。
ある「事実」を告げれば、あの女は絶望するだろう。
唯一、たった一つ、今、必死にしがみついているものが崩れ去るのだから。
鰐塚さんが真実へと辿り着いてくれれば……その事実を、告げる役目を、頼める。
そう考えてしまった。
「……わかりました。俺にできることは、鰐塚さんが姉さんの死を探るうえで、「口止め」されないように働きかける事くらいです」
だから、俺はこう答えた。
ごめんなさい。あなたの想いを尊重した訳じゃない。
俺は、俺自身の身勝手な復讐のためにあなたを利用しようとしたんだ。
いや、今もなお、あなたを利用し続けている。
たとえ、誰に恨まれようとも。
姉さんを殺した報いを。
あぁ、姉さんには。
ただただ、ごく普通の幸福を、つかんでほしかった。
ただ、それだけだったんだ。

[844 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[412 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[464 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[156 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[340 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[237 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[160 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[97 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
[41 / 500] ―― 《堤防》顕著な変化
[17 / 400] ―― 《駅舎》追尾撃破
ぽつ・・・
ぽつ・・・
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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白南海 「・・・・・ん?」 |
サァ・・・――
雨が降る。
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白南海 「結構降ってきやがったなぁ。・・・・・って、・・・なんだこいつぁ。」 |
よく見ると雨は赤黒く、やや重い。
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白南海 「・・・ッだあぁ!何だこりゃ!!服が汚れちまうだろうがッ!!」 |
急いで雨宿り先を探す白南海。
しかし服は色付かず、雨は物に当たると同時に赤い煙となり消える。
地面にも雨は溜まらず、赤い薄煙がゆらゆらと舞っている。
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白南海 「・・・・・。・・・・・きもちわるッ」 |
チャットが閉じられる――