
はじめ私は、「彼」のことをCERVの先生たちの一人だと思っていた。
彫りの深い顔立ちに、白髪交じりのロマンスグレー。
まるで絵にかいたような「ハカセ」で、第一印象は白衣が良く似合う人。
彼なりの努力の結晶を信じ込んで、丁寧な敬語を使ってしまったことをよく覚えている。
それは自然な姿ではなかったし、事情を知った後では、「彼」の存在の全てが不自然だった。
異能保持者は、人類の突然変異体だという人がいる。
私たちの祖先が果てしなく長い時の果てに言語なるものを獲得したように、
異能の発現は進化の兆しであり、私たちは人類の新型モデルなのだそうだ。
私はそうは思わない。思えないし、思いたくない。
次世代を担うポストヒューマンが、こんなに悲しい存在であっていいはずがない。
私は、CERVのラボの中でしか生きられなかった子供たちを知っている。
誰もが異能に振り回されていた。
あまりにも強く無慈悲で、制御の効かないチカラを誰もが怖れていた。
ううん。怖れていたのはきっと自分自身。
社会通念上、そして現代の法解釈のもとでは、異能と個人は不可分のもの。
災厄の報いは、私たち自身が負わなければならない。
異能が私たちを化物にした。人間ではいられなくしたんだ。
CERVのラボでは、毎日のように凄惨な事故が起きていた。
加害者も被害者も子供だった。先生やスタッフの人たちも容赦なく巻き込まれた。
子供たちの心にストレスをかけないように、事故は可能なかぎり隠蔽された。
―――そういう時には、決まって「彼」にお呼びがかかった。
《ミダス王》が、担当の先生を金塊に変えてしまった時もそう。
彼さえ間に合えば、何とかなった。
死者さえも蘇えらせてみせたし、事故そのものが無かったことにできた。
「彼」は時間を吸い取るの。
局所的な時間遡行を引き起こし、遡った分だけ齢を重ねる。
失われた生命を呼び戻し、不可逆の変化を巻き戻してみせた。
けれど、時間が経つほどに代償は重くなっていく。
「彼」の身体には、取り戻してみせた時間の数十倍の年輪が刻まれていた。
痛ましいまでに老け込んだ顔で、年齢相応におどけてみせる彼は。
先生たちに囲まれて、まるで大人のように振舞っていた彼は。
時々私たちを、どうしようもなく羨ましそうに眺めていた彼は。
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透 「…………私より年下の、まだ10歳の男の子だった」 |
喪われた生命を取り戻す。死者蘇生の異能は稀だ。
私の知るかぎり、CREVにも数えるほどしかいなかったはず。
強力な異能には相応に複雑な条件があるのが常だ。
彼ほど汎用性のある異能保持者は、他にいなかったのだと思う。
つまりは、彼が唯一の解法だった。
誰もが彼に期待を寄せたし、彼も期待に応えようとした。
彼は―――「あの子」は私たちの味方で、私たちはあの子にお返しがしたかった。
だからなるべく一緒に遊んだ。同じ時間を過ごそうとした。
でも、ダメだった。あの子はいつも忙しかったから。
晩年のあの子は―――変わってしまった。
笑うことが少なくなって、気難しくもなっていたと思う。
物忘れがひどくなって、やがて私たちのこともわからなくなってしまった。
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透 「それでも、私は。私たちは―――」 |

[845 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[409 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[460 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[150 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[311 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[202 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[149 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
[68 / 500] ―― 《古寺》戦型不利の緩和
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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白南海 「・・・ロストの情報をやたらと隠しやがるなワールドスワップ。 これも能力の範疇なのかねぇ・・・・・とんでもねぇことで。」 |
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白南海 「異能ならリスクも半端ねぇだろーが、なかにはトンデモ異能もありやがるしねぇ。」 |
不機嫌そうな表情。
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エディアン 「私、多くの世界を渡り歩いてますけど・・・ここまで大掛かりで影響大きくて滅茶苦茶なものは滅多に。」 |
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エディアン 「そういえば貴方はどんな異能をお持ちなんです?」 |
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白南海 「聞きたきゃまずてめぇからでしょ。」 |
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エディアン 「私の異能はビジーゴースト。一定の動作を繰り返し行わせる透明な自分のコピーを作る能力です。」 |
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白南海 「あっさり言うもんだ。そりゃなかなか便利そうじゃねぇか。」 |
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エディアン 「動作分の疲労は全部自分に来ますけどねー。便利ですよ、周回とか。」 |
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白南海 「集会・・・?」 |
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エディアン 「えぇ。」 |
首を傾げる白南海。
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エディアン 「――で、貴方は?」 |
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白南海 「ぁー・・・・・どうすっかね。」 |
ポケットから黒いハンカチを取り出す。
それを手で握り、すぐ手を開く。
すると、ハンカチが可愛い黒兎の人形に変わっている。
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エディアン 「わぁー!!」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・手品の異能ですかー!!合コンでモテモテですねー!!」 |
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白南海 「なに勝手に変な間つくって憐れんでんだおい。」 |
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白南海 「糸とかをだなー・・・・・好きにできる?まぁ簡単に言えばそんなだ。 結構使えんだよこれが、仕事でもな。」 |
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白南海 「それにこれだけじゃねぇしな、色々視えたり。」 |
眼鏡をクイッと少し押し上げる。
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エディアン 「え!何が視えるんです!?」 |
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白南海 「裸とか?」 |
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エディアン 「ぇ・・・・・」 |
咄嗟に腕を組み、身構える。
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白南海 「・・・嘘っすよ、秘密秘密。言っても何も得しねぇし。」 |
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エディアン 「ケチですねぇ。まぁ私も、イバラシティ生活の時の話ですけどねー。」 |
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白南海 「・・・・・は?」 |
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エディアン 「案外ひとを信じるんですねぇー、意外意外!」 |
そう言ってチャットから抜けるエディアン。
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白南海 「あぁ!?きったねぇだろそれ!クッソがッ!!おいいッ!!!
・・・アンジニティぶっ潰すッ!!!!」 |
チャットが閉じられる――