自分は一体誰なんだろう。
御堂翠華でないならば、自分は何になれるのだろう。
『御堂翠華』の正解を探し続けたけれど、本物には一度も会ったことが無い。
ハザマの赤い空とも、血の赤でもない。
丁寧に染め上げられた紅色の着物が視界に映った。
内巻きの茶色の髪、琥珀色の瞳。くりくりとした丸い瞳は、初めて見るものだけれど、馴染み深いものだった。
なるほど、昔の自分によく似ている。
違うか。自分が彼女に似ているのだ。
義父の背中に寝転んでいる横にぴったりと付いてきている。
少し透けている気がするのは、彼女が幽霊だからなのか。それともまだ自分と向き合う覚悟がないのか。
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御堂翠華 「………………」 |
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コメット 「……初めまして、になるのかな。」 |
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御堂翠華 「………………」 |
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コメット 「……とりあえず、話しにくいから 脳だけは元に戻してくれないかな?」 |
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御堂翠華 「……わからないの。 私がどうやってあなたをそんな体にしたのか。 それをどうやって戻すのか。」 |
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コメット 「ああ、そこからか……。 それじゃあ、あたしの異能の話からしないとね。」 |
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コメット 「……どうかな。 かいつまんで説明したんだけど。」 |
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御堂翠華 「私が……私たちがあなたに戦ってほしくないと願うから、 あなたの異能がそれを受け取ってしまうのね?」 |
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コメット 「困ったことにね。 『そうであれ』と願われたら、あたしの異能はあたしの意志に関係なく取り込んでしまう。 ハザマにおいては異能の力が増幅するからあちら側より敏感になっているようだ。」 |
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御堂翠華 「……あなたは、戦いたいの?」 |
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コメット 「うん。」 |
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御堂翠華 「痛いのに?」 |
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コメット 「うん。」 |
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御堂翠華 「苦しいのに?」 |
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コメット 「うん。」 |
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御堂翠華 「……どうして?」 |
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コメット 「どうして、かあ……。 当事者だから、かなあ。」 |
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御堂翠華 「当事者……イバラシティの人で、この戦争に参加したから?」 |
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コメット 「うん。それもあるんだけど……」 |
「それでも、肯定するっていうのか。
それでも、尊重するっていうのか?
"あの街のおれ"が、お前を形作っても。
あいつとおれは別人だ。……そうだろ?
じゃあおれとお前は、無関係の──唯の敵同士じゃねえか。
何でそこまで。水中で踊ったらフツー人は死ぬんだぜ。
……何でそこまで許容する?」
「がんばってね、コメットちゃん。
いつだってわたしはあなたの味方だよ。」
「わたしのたいせつな――
――たいせつな、いもうと。」
「だから俺が助けてくれって言ったら助けろ。
どんだけ頑張ってもいいがその分の余裕をとっておけ。
いいか? これは先輩命令だ。
その代わり、俺もお前を助けてやる。できる限り。
しんどくなったら呼べ。下手な遠慮なんかすんなよ」
「だから、君も。もし引き金が引けないのなら……
引かない選択肢だって、ある。
とりあえずボッコボコにしてから、
殺すかどうか良く考える。
そう言う手も、あるんじゃないかな。
少なくとも、戦う時には考えない方がいいと思うぜぼかぁ」
「__知った先に、何かが見えるのだとしたら……」
「……、名など要らぬよ。鬼と呼べ。
名を貴様の記憶に刻むほど、儂は特別な関係ではなかろう。」
「それくらいの猶予はある。
俺と対峙する時が来るまで、答えを出しておくといい。」
「そういうときに、君は良い表情をすることを……"セリカ"は知っている。」
「それと、怪我のないように。無茶はしないように。
私が悲しむからね? ……では、健闘を祈る」
「うん!私は自分の願いや想いを守るよ!
だからコメットも最後まで挫けないでね、応援してるから」
「“嘘なんかではない”?
…嘘だったではないか。…全部……全部…ッ!!」
「コメットさん、体には気を付けてくださいね!
言ってどうにかなるものじゃないと思いますが……、
心配してる友達がいるって事は心にとめておいてください! お願いしますよ!」
「……お前の何が変わっても」
「俺は、お前を"観"つけだす」
「だから。……安心してほしい。
俺が何をやり損なおうとも」
「コメットを誰かに、何かに渡すことは、しない」
「―――どんなかたちになっても、だ!」
「一度決めたことを投げ出すほど、まだ腐ってはいないはずだから
体の傷なら耐えられる。あとは心の問題だ」
「同情してるのは、コメ姉ぇがじゃないの?
……ボコボコになんて甘い事言わないで。
いっそ、殺してくれていいんだよ。
もう、疲れちゃったんだ、大切な人と、いがみあうの。
お願いだから、…そろそろあたしを休ませて。」
「ありがとう。”宮森美奈子”と仲良くしてくれて。
……僕は、本当にそれだけで。
その温もりだけが、欲しかったんだ」
──コメット・エーデルシュタインに届けられた声がたくさんあった。
安否を確認する者、敵対する者、嘆願する者。
そこに込められた感情は何であれ、確かに『自分』に向けられた言葉があったのだ。
「あたしは、ここにいるんだ。」
「だから、あたしはこの場所の、この戦争の当事者であるし。」
「結末がどうなろうと、その期待に真っ向から向き合いたい。
目を閉じて蹲って、守られて隠されて──そんなのは、もう嫌なんだ。」
誰かの言いなりになって、誰かを演じて、自分の全てを委ねて──そんな甘えはもういらない。
自分の意志で、誰かを傷つける覚悟をしなければ。
「この戦いの結末を、誰かのせいにはしたくない。
引き金を引く責任を他人に押し付けたくはない。」
苦しい。辛い。叩かれたら痛いし、助けてと伸ばされた手を取ることができない自分が歯痒い。
だけど、それでも。
「あたしは、進みたいよ。
立ち止まりたくはない。何もしないことはしたくない。
せめて、あたしは前に進みたい。」
自分を信じてくれる人に。
自分を心配してくれる人に。
自分を好きでいてくれる人に、誇れる自分でありたいと思う。
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コメット 「──だからさ、あたしを信じてほしい。」 |
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コメット 「かわいい子には旅をさせよ、なんて言葉もあるくらいだし? そろそろ自立していかないとね。」 |
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コメット 「心配してくれるのは嬉しい。 だけど、あたしの意志と機会を奪わないでほしいんだ。」 |
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コメット 「……もし、完全に信じられないのなら、まだ残しておいてもいいからさ。 せめて飴にする箇所は選ばせてくれると嬉しい。」 |
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御堂翠華 「……箇所?」 |
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コメット 「うん。 脳はもちろんだけど……片手も残してくれると嬉しいかな。」 |
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コメット 「──手を、繋ぎたいんだ。 手を繋いだ時に、温もりも感触もわからないのは……ちょっと寂しいから。」 |
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御堂翠華 「………………」 |
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御堂翠華 「……信じて、いいの?」 |
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コメット 「うん。信じてほしい。」 |
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御堂翠華 「……どうか、死なないで。 あなたは、私に残されたただ一人の家族なんだから。」 |
恨まなかったと言えば、嘘になる。
「信じます。あなたが前に進めるということを。」
羨まなかったと言えば、嘘になる。
「願います。あなたが健やかであることを。」
まだ、全ての色眼鏡を外してあなたを見ることはできないけれど。
「──行ってらっしゃい。コメット。」
その機会を作るために、今は背中を押して見送ろう。
小さな手が、横たわる少女の頭を撫でた。
あたしの演じていた『御堂翠華』は、正解にはあまりに遠かった。
やはりあたしの能力はただの役者で、『誰か』になることはできないけれど。
『コメット・エーデルシュタイン』にはなれたのだと、そう思う。
ぼんやりとしていた視界が少しずつ晴れていく。
遠くに戦っている仲間たちが見える。そろそろ合流しなければ。
なんかゴリラみたいな防具が空飛んでるし。
あたしの義父も義姉も相当な心配症のようで、飴化が完全になくなることはなかったけれど。
体を起こす。手足の動きを確かめる。
大丈夫。まだ進める。
"これ"が皆を心配させるのなら、うまく使いこなして見せなければ。
できるはずだ。そう信じてくれる人がいるのだから。
"上手くやれ"。両頬を叩いて、ハザマの空を睨みつけた。

[842 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[382 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[420 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[127 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[233 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[43 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[27 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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白南海 「・・・・・おや、どうしました?まだ恐怖心が拭えねぇんすか?」 |
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エディアン 「・・・何を澄ました顔で。窓に勧誘したの、貴方ですよね。」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!! 俺これ嫌っすよぉぉ!!最初は世界を救うカッケー役割とか思ってたっすけどッ!!」 |
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エディアン 「わかわかわかわか・・・・・何を今更なっさけない。 そんなにワカが恋しいんです?そんなに頼もしいんです?」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。
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白南海 「それはもう!若はとんでもねぇ器の持ち主でねぇッ!!」 |
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エディアン 「突然元気になった・・・・・」 |
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白南海 「俺が頼んだラーメンに若は、若のチャーシューメンのチャーシューを1枚分けてくれたんすよッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・。・・・・他には?」 |
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白南海 「俺が501円のを1000円で買おうとしたとき、そっと1円足してくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・あとは?」 |
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白南海 「俺が車道側歩いてたら、そっと車道側と代わってくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・うーん。他の、あります?」 |
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白南海 「俺がアイスをシングルかダブルかで悩ん――」 |
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エディアン 「――あー、もういいです。いいでーす。」 |
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白南海 「・・・お分かりいただけましたか?若の素晴らしさ。」 |
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エディアン 「えぇぇーとってもーーー。」 |
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白南海 「いやー若の話をすると気分が良くなりますァ!」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!!!!!!」 |
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エディアン 「・・・あーうるさい。帰りますよ?帰りますからねー。」 |
チャットが閉じられる――