05
──ねーちゃん、とーちゃんてどこにいるの?
弟に訊かれて真夜は言葉に詰まる。
はっきりと口止めされているわけではないが、母はたぶん本当のことを煌都に教えたくないのだと思う。
──お父さんはね、お空の上にいるの。
──お空の上? ウチューってこと?
小学一年生の想像力は予想できるようなものではない。
──そ、そうね……そうかもしれないね……
弟はしばらく考えていたが、笑顔で姉を見上げる。
──じゃあぼく、ウチューヒコーシになる!
真夜は目を覚ました。見た夢が、過去にあった出来事を再生したものだと思い出す。昨日は母から聞いた煌都の言葉に驚いてしまった。こんなやり取りがあったことなど、すっかり忘れていた。
そっか……私がコウくんに吹き込んだことになるのかな……。
だがまさか、そんな発想をしてくるとは思わなかったのだから仕方がない。
昨日の段階ではまるっきり忘れていたのだから、我ながら見事に母を欺いたということになる。
この事実を母に伝えるかどうかは悩むところだった。伝えたらたぶん文句を言われるだろうが、典型的な「いまさらどうしようもないこと」だからである。
高校生になった煌都が「あのときの会話」をどこまで信じているのかを想像すれば、たぶん父に会いたいからという理由ではなくなっている気はするが、少なくとも当初の動機としては最大のものだったのだろう。
「マヤちゃん、おはよう」
起きると母はもう起きていた。「トーストとコンビーフでいい?」
「うん、ありがとう。コーヒー淹れるね」
朝も出かける時間が1時間以上違うため、ここのところ一緒に朝食を摂った記憶がない。真夜はもっぱらコンビニやモーニングのあるファーストフード店などを利用していた。
「昨日は眠りが浅くて早くに目が覚めちゃったのよね」
あのあと母を起こしてお風呂に入ってもらった。起きたあとはふだんと変わらないように見えた。たぶん表面だけだとは思うが、深入りするべきではないと判断していた。
「あ、お母さん、えーっと……昨日の話なんだけど……」
久し振りの団欒に水を差しそうな気もしたが、やはり話すべきだと真夜は思う。
…………。
「……じゃあ、マヤちゃんがコウトを焚きつけたわけ?」
母は呆れ気味に言うが、苦笑という感じで、真夜の覚悟ほど不穏な空気にはならなかった。
「だって……お母さんは言ってほしくなさそうだったけど、嘘つきたくないし……」
「そうよね、ごめんね」
昨日それなりに吐き出したからか、母は意外に落ち着いているようだった。
「今度……すぐとは言えないけど、今月中くらいには、コウトに直接連絡してみるわ」
「うん。ありがとう。コウくんに伝えとく?」
「それはやめて」
母は両手を合わせた。「自分でなんとかするから」
母は言った以上は逃げるタイプではないのでその点は安心している。
少なくとも、一歩前進したようだった。
「今さら言うまでもないけど、コウくんはお母さんのこと尊敬してるから、たぶん喜んでくれると思ったんじゃないかなあ」
「でしょうね……お父さんのことがなければ私だって嬉しかったと思うんだけど……」
「やっぱり『血は争えない』ってことなのかな」
「遺伝子情報よりは環境要因だと思ってたんだけど……マヤちゃんの話を聞いたら自信がなくなってきたわ」
「うん、どんどんお父さんに似てきてる気がする……」
父の記憶がなく、父親不在のまま育ったはずの煌都の性格や言動が父に似ていくのは、ほかになんと説明すればいいのだろう?
「とりあえず、私はいつも通りにコウくんと話してればいいかな?」
真夜はそう言ってコーヒーの残りを飲み干して立ち上がる。そろそろ出ないといけない。
「うん。なるべく悟られないようにしてほしいかな」
こういうところで少し内に籠もってしまうのがお母さんの欠点、かなあ。
開けっぴろげというか、脳天気というか、わりとなんでも口にしてしまう父や煌都にはない特徴で、これが「性格の不一致」だったのだろう。
その煌都が夢をしまい込んでしまっていたのだから、やはり根は深いと思わざるを得ない。
「はいはい。すぐには解決できないかもしれないけど、二人とも理系なんだから、ちゃんと論理的に話し合ってね」
「分かってるわ。最初はなるべく直接通話は控えるつもり」
「お母さんのすごい点は、自分の欠点を分かっていて、それに向き合えることよね」
欠点を直すのではなく、欠点の対処法を考えることで解消する、という思考法は真夜が思春期に悩みを相談した際にも発揮された。
おかげで自己嫌悪や人間関係で深刻な状況に陥るのをうまく避けられたと思う。そういう母を尊敬していた。
「ありがとう。マヤちゃんが褒めてくれると自信が出るわね……行ってらっしゃい」
「うん、行ってきます!」
久々に足取りが軽い。今日はいい天気だった。空を見上げて目を細め、見えない何かに向けて手を振ってから、真夜は笑顔で歩き出した。
--月--日(--)
思ったよりしんどい。
ここではいつもと違う使い方を強いられる。でもそうしないと何も出来ない。
もっとうまく使いこなせるのでは。
ぼくは天才じゃない。
不断の努力こそが己たらしめていることを忘れないように。
06月17日(水)
バイト先を探す。
近所でいい場所があって助かった。
店長もいいひとだしきっといろいろ新しいことが覚えられるだろう。
楽しみだ。
06月30日(火)
バイトも慣れてきた。と思う。
寮では調理をすることはないので行って良かった。
どうせならもう少し上手くなりたい。
シフト増やしてもらおうかな~。

[842 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[382 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[420 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[127 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[233 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[43 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[27 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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白南海 「・・・・・おや、どうしました?まだ恐怖心が拭えねぇんすか?」 |
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エディアン 「・・・何を澄ました顔で。窓に勧誘したの、貴方ですよね。」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!! 俺これ嫌っすよぉぉ!!最初は世界を救うカッケー役割とか思ってたっすけどッ!!」 |
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エディアン 「わかわかわかわか・・・・・何を今更なっさけない。 そんなにワカが恋しいんです?そんなに頼もしいんです?」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。
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白南海 「それはもう!若はとんでもねぇ器の持ち主でねぇッ!!」 |
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エディアン 「突然元気になった・・・・・」 |
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白南海 「俺が頼んだラーメンに若は、若のチャーシューメンのチャーシューを1枚分けてくれたんすよッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・。・・・・他には?」 |
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白南海 「俺が501円のを1000円で買おうとしたとき、そっと1円足してくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・あとは?」 |
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白南海 「俺が車道側歩いてたら、そっと車道側と代わってくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・うーん。他の、あります?」 |
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白南海 「俺がアイスをシングルかダブルかで悩ん――」 |
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エディアン 「――あー、もういいです。いいでーす。」 |
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白南海 「・・・お分かりいただけましたか?若の素晴らしさ。」 |
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エディアン 「えぇぇーとってもーーー。」 |
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白南海 「いやー若の話をすると気分が良くなりますァ!」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!!!!!!」 |
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エディアン 「・・・あーうるさい。帰りますよ?帰りますからねー。」 |
チャットが閉じられる――