
[SIDE:I]
──燠庭家の居間。
夕食後、就寝前の団らんタイム。
しかしそこには、妙な緊張感が満ちていた。
「………」
「………」
少女と幼児が固唾を飲み、並んで食い入る様に見つめるTV画面では──
『…その時ですね、ザワザワーッ!と、何か嫌〜〜な、生臭〜い風がね、藪の奥から吹いてきましてね…』
蝋燭が灯された薄暗いスタジオ。
ぽつんと敷かれた畳の上で、痩せた初老の男性タレントが雰囲気たっぷりに恐怖体験を語る…
夏場の恒例、稲山JUNZOの怪談トークライブが絶賛放映中であった。
『…そこでA子さん、さっきから何かおかしいな〜、おかしいな〜、って、どうしてもね、藪の向こうが気になっちゃったんですよね』
「……(き、気にしちゃだめ…!)」
「……(だめ!だめ!)」
お茶の間の二人の願いを他所に、JUNZOの語りは続く。
『それでA子さん、思い切って覗いてみようとね、暗い山道を懐中電灯を手に、藪を掻き分けて進んで行ったんですね。
ガサガサ…ザザッ、ザザッ…。
…すると、少し行った所に、小さな山小屋が見えた。
あれ、こんな場所に小屋があったんだ…そう思って近付いてみると、人気はなく、シーン…と静まり返ってる』
「……(か、帰ろう?そこで帰ろう…?)」
「……(だめ、おばけいる、ぜったいいる…!!)」
いつの間にか、ピトッと体をくっつける様に座っている少女と幼児。
『やだな〜、気持ち悪いな〜、そう思いながらもA子さん、ど〜〜しても山小屋が気になる。
やだな〜、やだな〜…と思いながらも、つい山小屋のドアに手を掛けたんです。
きっと閉まってるだろう、閉まってたらそのまま戻ればいいや、そう思って。
…そしたらですね、
ガチャ…ギイィ〜…。…開いたんです』
「……(アァ〜〜…!)」
「……(あいちゃった…!!)」
『すると途端、淀んだ、ムッとする様な、何かが腐った様な空気が流れてきましてね。
ずいぶん閉めっきりだったせいなんでしょうかね、中は真っ暗で人気はやっぱりない。
そこでA子さん、持ってた懐中電灯で中を照らしてみたんです。
すると、そこには…』
「……(…ゴクリ…)」
「……(…ゴクリ…)」
『…部屋の中央ですね。そこで何かをぶち撒けたような、真っ黒な染みが見えた。
…うわあ、何だろう…何だろうあれ…そう思って、懐中電灯を動かしながらよくよくその周りを見渡すと…
御札の様な紙と一緒に、長い黒髪がバサバサーッと、床一面に散らばってる!』
「……(……!!)」
「……(〜〜〜!!!)」
『うわあ〜〜〜…!!何これ気持ち悪い、どう見たってただ事じゃない!
A子さん、ゾゾゾーッと鳥肌が立ちまして、急いでドアを閉めてその場を離れた!』
「……(早く逃げて…早く早く…!!)」
「……(えーこさん、うるとらえきさいてぃんカキレンターボだっしゅ!!!!)」
『…ところがですね。藪を進む途中、またふと、小屋を開けた時のあのイヤ〜な臭いを感じたA子さん。エッ…と思って、思わず振り返ると…』
「……(…ゴクリ)」
「……(…ゴクリ)」
『するとそこにh…
( ──ガラッ )
「ピャ!?!?」
「ピャア!?!?」
何という事でしょう。その時、絶妙のタイミングで居間の襖が開いた!
跳び上がり、思わず抱き付き合う幼児と少女!
果たしてそこに顔を覗かせたのは──
 |
丹青 「…ん、二人して何見てんだ?」 |
…じいちゃんだった。
脱力し、へちゃりとテーブルに突っ伏す二人。
「……(…び、びっくりした…)」
「……(おばけがきたかとおもった…!!)」
──TV画面ではその時すでにJUNZOの話は終わっており、結局二人はオチ部分を見逃した。
・
・
・
「…そんな怖ぇんなら、見なきゃ良いんじゃねえか?」
そんなもっともな祖父の言葉にも、だがしかし──
 |
颯木 「…コワクナイヨ?」 |
 |
弧鉄 「ゼンゼンコワクネーシ!」 |
と、双方棒読み台詞を返すばかりだという。
ここまで含め、これが燠庭家夏の風物詩であった。どっとはらい。

[842 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[382 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[420 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[127 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[233 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[43 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[27 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
 |
白南海 「・・・・・おや、どうしました?まだ恐怖心が拭えねぇんすか?」 |
 |
エディアン 「・・・何を澄ました顔で。窓に勧誘したの、貴方ですよね。」 |
 |
白南海 「・・・・・・・・・」 |
落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。
 |
白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!! 俺これ嫌っすよぉぉ!!最初は世界を救うカッケー役割とか思ってたっすけどッ!!」 |
 |
エディアン 「わかわかわかわか・・・・・何を今更なっさけない。 そんなにワカが恋しいんです?そんなに頼もしいんです?」 |
 |
白南海 「・・・・・・・・・」 |
ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。
 |
白南海 「それはもう!若はとんでもねぇ器の持ち主でねぇッ!!」 |
 |
エディアン 「突然元気になった・・・・・」 |
 |
白南海 「俺が頼んだラーメンに若は、若のチャーシューメンのチャーシューを1枚分けてくれたんすよッ!!」 |
 |
エディアン 「・・・・・。・・・・他には?」 |
 |
白南海 「俺が501円のを1000円で買おうとしたとき、そっと1円足してくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
 |
エディアン 「・・・・・あとは?」 |
 |
白南海 「俺が車道側歩いてたら、そっと車道側と代わってくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
 |
エディアン 「・・・うーん。他の、あります?」 |
 |
白南海 「俺がアイスをシングルかダブルかで悩ん――」 |
 |
エディアン 「――あー、もういいです。いいでーす。」 |
 |
白南海 「・・・お分かりいただけましたか?若の素晴らしさ。」 |
 |
エディアン 「えぇぇーとってもーーー。」 |
 |
白南海 「いやー若の話をすると気分が良くなりますァ!」 |
 |
白南海 「・・・・・・・・・」 |
 |
白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!!!!!!」 |
 |
エディアン 「・・・あーうるさい。帰りますよ?帰りますからねー。」 |
チャットが閉じられる――