――――記憶が、混ざる。
向こうの自分は、随分と慣れて、のんきになったらしい。
あちらでも怪奇現象に巻き込まれたけれど、慣れてしまったのか、なんなのか。
その原因たる鳴海さんに対して、随分と落ち着いた対応を取れたものだ。
だったら、もう、中学校の爆発なんて、時間が経ったのだから乗り越えても良いはずだ。
――良いはずでしょう?
――他人のそれと、自分とは違うって?
――もしかしてそれは、自分は好き勝手に言うけれど、自分はそれでは救われないから、誰かに救ってもらいたいと?、
――言い訳を積み重ねて、自分が怖いことからは逃げ出して?
自嘲気味に俯く。なにせ、こちらの自分としては、爆発のショックは、大半どうでもいい記憶なのだ。
この戦いが始まった時の方が、暫く経って、クラスメイトや後輩が敵方に回ってしまったことの方が、よっぽど辛いのだ。
だから、こんな事が言えるのだろうけど。
言うだけなら、なんでも言えるのだ。
――――記憶を掘り起こす。
ふと、アンジニティ側についたイバラシティの住人とはどのようなものかと、思考を巡らせる。
妹の反応を見る限り、そして周囲の反応を見る限り、一定数、そのような人々はいるようだ。
イバラシティを壊したい?周囲に怨恨、悪意をばらまきたいのであれば、納得だ。破滅願望もあれば、自分は荒廃した世界に飛ばされるのだから、なお良い。
――そう、向こう側に付いたイバラシティの住民は、勝っても何も得るものは無い。であれば、理由としては破滅願望の方が、大きいのだろうか。
どういった理由で?
それは分からない。それこそ、千差万別だろう。推測すること自体おごがましい。
……それでは、ここで思考が終了してしまう。もう少し考えてみよう。
記憶を掘り起こす。例えば、私だ。
私は幼少期に異能で事故を起こして、そこからずっと、異能を制御できていない。
火傷は止まらず、だからと努力したって、制御が上手くいくわけでも無く。
異能を抑えたりする器具があるとは聞いた。だけれども、それは結局、完全に抑える事はできない訳で、服を燃やし、抑えきれない熱が、体に新しい傷を作ることを止める事はできないのだ。
最近になって、ようやくうかつに物を燃やさずにいられるようになったけれど、いつまで経っても熱を貯める事はできない。
火傷には、悩まされてきた。
なにせ、痛い。痛いし、かゆい。だけど、それは正直、慣れの問題だ。一部嘘だ。新しく火傷ができる度に痛かったりするのは煩わしい。
それ以上に、見た目だ。
最後に大やけどをしたのは小学校高学年位だったか。妹を庇って、暴走して、大やけどを負って。
治さないのか、と教師やクラスメイトに言われたこともあった。けれど、小さい頃に大きな火傷をして、その時は治してもらったけれど、べらぼうなお金がかかったことを後で知ったから、制御ができるようになるまでは、勿体無いからと、断っている。
それが結局、今の今まで続いているのだけれど。
火傷は、随分インパクトが強かったらしい。
顔の火傷があるから、中学、高校とクラスが変わる度、距離を置かれたり、からかわれたりした。
慣れはあった。嘘だ。嘘じゃない。自分にも、クラスの人間も慣れていったはずだ。特に多かった単純な忌避やからかいは慣れたはずだ。
だって、制御できない自分が悪いのだから。そういう意識はいつもあった。いじめは――あったような、無かったような。
全部無視していたら、大体なんとかなったと思う。
少し考える。
ここで無視できずに、潰れてしまっていたら?
どうして潰れてしまわなかったのかと言えば、親という鎹があったからだ。
これ以上、心配をかけまいと、私は学校で何か騒動が起こっても何も言わなかったし、それが最善だと思っていた。
だけど、もし。もし最初の事故で火事になって、私以外の全員が死んでいたら?
親に心配をかけさせないという抑えが無かったら、私の中の暴力性はどうなっていた?
――無視できていたということは、無関心だったということだ。そんな相手は、どうでもいいと、そう思っていたに違いない。
本当か?本当だとも。何故なら今、鉄パイプを振り回して、目の前の" ど う で も い い も の "をなぎ倒している。
恐らく健全に、親がいて育っていてもこれだから、親を失った私がどうなるか。
――勿論、推測にすぎない。何もかもifの話でしかない。
でも、全てはめぐり合わせなのだろう。私もそうなっていたかもしれない。
誰にだって、あるのかもしれない。
そう結論づけるしか無かった。
だからと言って、許す訳では無いけれど、哀れむくらいはしても良いだろうか?
たぶん、私なら「どうでもいい」と言うだろうが。

[842 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[382 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[420 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[127 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[233 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[43 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[27 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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白南海 「・・・・・おや、どうしました?まだ恐怖心が拭えねぇんすか?」 |
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エディアン 「・・・何を澄ました顔で。窓に勧誘したの、貴方ですよね。」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!! 俺これ嫌っすよぉぉ!!最初は世界を救うカッケー役割とか思ってたっすけどッ!!」 |
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エディアン 「わかわかわかわか・・・・・何を今更なっさけない。 そんなにワカが恋しいんです?そんなに頼もしいんです?」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。
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白南海 「それはもう!若はとんでもねぇ器の持ち主でねぇッ!!」 |
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エディアン 「突然元気になった・・・・・」 |
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白南海 「俺が頼んだラーメンに若は、若のチャーシューメンのチャーシューを1枚分けてくれたんすよッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・。・・・・他には?」 |
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白南海 「俺が501円のを1000円で買おうとしたとき、そっと1円足してくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・あとは?」 |
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白南海 「俺が車道側歩いてたら、そっと車道側と代わってくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・うーん。他の、あります?」 |
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白南海 「俺がアイスをシングルかダブルかで悩ん――」 |
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エディアン 「――あー、もういいです。いいでーす。」 |
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白南海 「・・・お分かりいただけましたか?若の素晴らしさ。」 |
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エディアン 「えぇぇーとってもーーー。」 |
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白南海 「いやー若の話をすると気分が良くなりますァ!」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!!!!!!」 |
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エディアン 「・・・あーうるさい。帰りますよ?帰りますからねー。」 |
チャットが閉じられる――