
月の都、という物があるのだという。
其処は雲よりも遠く、星の瞬きに輝いて
人々は老いず、死なず、皆一様に美しく
それはまるで理想郷の如き場所なのだという。
月に住む兔達は彼らに届けるための薬を煎じ
共に永久にも近い年月を過ごすのだという。
月の兔―玉兎―とは、それを指す言葉だ。
かつてアンズと呼ばれた角兔は、月の罪人と共に月へと昇り
玉兎と成るために日々野山を駆け草木を採り、泉から清水を汲み上げ、薬を煎じていた。
そうして日々を過ごしながら故郷を見れば
それはたいそう小さく見えて、月の都と比べれば灯りも少なく
その姿を見やれば、隣の玉兎が語り掛けた
「どうだい、どうだい、小さいだろう」
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アンズ 「……」 |
「彼方の人間は命も短く、美醜もまちまちで、戦も多いのだろう?」
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アンズ 「……」 |
「此方にこれるなんてお前は随分幸福だなあ」
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アンズ 「でも」 |
命の煌めく様はきっと、ずっと、あちらの方が美しかった。
人の心というものは、きっと、もっと温かかった。
――だから
だからやはり あの蒼い野に あの広い世界に あの温かい場所ー家族ーへ 帰りたい。
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アンズ 「もういちどくらい、行きたいと」 |
がらん、と草木を集めた木の皿が音を立てた。
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「そんなことを思うものではないよ。ここにいることが僕たちの本当のしあわせなのだから」 |
金色の玉兎の瞳が、角兔を強く捉えていた。
だけど、だけど この心ばかりは変えられない。
都から半日程歩いた場所に
月の罪人が送られるという深井戸があった。
彼らはそれに落とされて、人としての生を受けるのだと。
そして月日が経てば また月へと帰るのだと。
決していけないと、何度も、何度も念を押されていた。
けれど
角兔は、幾らかの薬の材料をその身の内に隠して
その深井戸に飛び込んだ。
飛び込んだ先は――――見覚えのある、美しい野原で。
ああ、こんなに小さかったっけ。
そう、家族と何度か 訪れた。
夜風に凪ぐ風が心地いい。
すこしだけ すこしだけ
少しだけ思い出しながら その場を無邪気に駆けまわって
疲れた頃に、久しく忘れていた眠りについた。
くぁ、とあくびをすると、どうやら日も高く昇った頃のようで。
”尾”がざらりと地面を這った。
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「ば、ば、化物!」 |
小さな、小さな人がそう叫んで何処かへと逃げていった。
待って、と声をかけたけれど
その影はどんどんと小さく小さくなって、森の中へ消えていった。
その森も、同様にひどく小さかった。
ああ、そんな事より早く
家族に会いにいかなくちゃ。
きっときっと、薬があれば また、昔みたいに
――むかし、むかし、あるところに
聡明な王子がおりました。
彼は凶兆の角兔と共に育ちましたが、
その兔が去った後、それはそれは賢く、逞しく、優しく育ち
王座を継いでからは、民草からの信頼も厚く
国は新しき王の下、明るい日々を連ねておりました。
そんな、麗らかなある日の事です。
政務を行っていた壮年の王の下に、兵隊長がやってきました。
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「王よ、どうか今すぐお逃げください!」 |
普段落ち着き払っているその人が、肩で息をするほどに大事なのだと、その場にいる誰もが理解しました。
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「何があった」 |
それでも王は静かに聞くものですから、兵隊長は一度深呼吸をして、声を落ちつけました。
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「はい、北の森に巨大な怪異が現れ、此方に向かっております」 |
ざわつく部下達を前に、王は立ち上がり言いました。
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「私が出よう。皆は民の非難を優先せよ。良いな」 |
兵隊長は、止めようと王を見上げましたが、すぐに思いなおしました。
その王の顔は、とても険しかったのです。
それもそのはずで
だってそれは
彼が、唯一救えなかった家族と最後に別れた場所だったのですから。
兎は、走って、走って
眼下の小さな草木を駆け抜けて
漸く、思い出の街へと帰ってきました。
あの日、もう一度、と約束した彼は、きっとここにいるはずで
だからその”彼”を見た時、兔はそれこそ飛び上がる程、嬉しかったのです。
王は"それ"を見て、より表情を険しくしました。
ああ、嗚呼、
こんなものがいるから、こういうものがいるから。
あの子は家族でいられなかったのだ。
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「これより先に進ませる訳にはいかない。怪異よ、討たれる覚悟は出来ているか」 |
怪異はそれに対し、がるる、と低く鳴いてから、何度か調子を整えるように、それを続けて
声を 発した。
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「おうじさま、おうじさまでは ありませんか」 |
それは、化物とするには美しく 人とするには不気味な
大地を震わすような声でした。
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「何を言うか。私はこの国の王である。人の言葉を知る怪異とは、奇妙な それで私の心が惑うとでも思うたか」 |
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「ああ、ああ! やっぱり!」 「私です! お分かりになりませんか、アンズです!」 |
跳ねるような声で良いながら、その巨大な尾が振るわれれば
王と共に来ていた兵士の内の幾人かが、王を守ろうと前に歩を進め、散って――
けれど怪異は、未だそれに気づいていないようでした。
その、刹那
王の持つ宝剣が怪異の尾の肉を裂きました。
 |
「……怪異よ、何処で名を知ったか知らぬが、二度と口にするでない」
「私のきょうだいは、お前のような怪しげな瞳の色はして居ない」 |
震える声は、王の怒りを乗せて、怪異へと伝わりました。
其れは瞳を妖し気に揺らし、王の持つ宝剣の刀身へと視線を移して。
嗚呼。
そう、
月から下りた角兔の怪異は もはや元の形など留めてはいなかったのです。
アンズ
それから後
尾を失い、逃げ出したその怪異の姿を見た者はいない、と されている。

[842 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[382 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[420 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[127 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[233 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
[43 / 500] ―― 《商店街》より安定な戦型
[27 / 500] ―― 《鰻屋》より俊敏な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
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白南海 「・・・・・おや、どうしました?まだ恐怖心が拭えねぇんすか?」 |
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エディアン 「・・・何を澄ました顔で。窓に勧誘したの、貴方ですよね。」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
落ち着きなくウロウロと歩き回っている白南海。
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!! 俺これ嫌っすよぉぉ!!最初は世界を救うカッケー役割とか思ってたっすけどッ!!」 |
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エディアン 「わかわかわかわか・・・・・何を今更なっさけない。 そんなにワカが恋しいんです?そんなに頼もしいんです?」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
ゆらりと顔を上げ、微笑を浮かべる。
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白南海 「それはもう!若はとんでもねぇ器の持ち主でねぇッ!!」 |
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エディアン 「突然元気になった・・・・・」 |
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白南海 「俺が頼んだラーメンに若は、若のチャーシューメンのチャーシューを1枚分けてくれたんすよッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・。・・・・他には?」 |
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白南海 「俺が501円のを1000円で買おうとしたとき、そっと1円足してくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・・・あとは?」 |
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白南海 「俺が車道側歩いてたら、そっと車道側と代わってくれたんすよ!!そっとッ!!」 |
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エディアン 「・・・うーん。他の、あります?」 |
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白南海 「俺がアイスをシングルかダブルかで悩ん――」 |
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エディアン 「――あー、もういいです。いいでーす。」 |
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白南海 「・・・お分かりいただけましたか?若の素晴らしさ。」 |
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エディアン 「えぇぇーとってもーーー。」 |
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白南海 「いやー若の話をすると気分が良くなりますァ!」 |
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・・・・・・・あああぁぁワカァァ!!!!!!」 |
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エディアン 「・・・あーうるさい。帰りますよ?帰りますからねー。」 |
チャットが閉じられる――