どこにもいけないこどもが居た。
必要な時だけ数多の視線に曝され、求められない時は陽も当たらない場所で蹲って息をする傀儡。
身体の成長と共に否応無く発達する情緒を許す者は居なかったから、見つける度に殺して潰して粉々にした。
気付けば胸の内には何も湧かず、言葉も思考も意思も必要とされぬ日々だけが過ぎていく。
けれどある日こどもには名前が与えられて、ある日一人の女が母となった。
誰かの痛みに寄り添わなければ価値の無くなったこどもは、求められるまま彼女から心を学ぼうとしていた。
なぜ泣くのか、なぜ笑うのか、なぜ怒るのか、なぜ喜ぶのか。
“理由“を知ることはできても、それが実感として伴うことは無く。
感情を教えようとする彼女の機微を真似ることのみが上手くなっていく日々だけを綴る。
それでも、たった1つ。
彼女が奏でるピアノの音は、伽藍堂の胸を確かに揺さぶった。
長い間小さな世界に存在しなかった音の調べは、灰色にしか映らない全てにその時ばかりは鮮やかな色を灯すから。
美しさに惹かれたこどもは失くしたものを取り戻すように音を奏で、自らの心を紡ごうとしていたのだ。
そんな日々が続けば、或いはまともで居られたのかもしれない。
違和感に気が付いたとしても、傍に背を撫でる温もりがあれば、或いは。
でも終わりが訪れるのは避けようのない運命。
それでよかった、そこで終わればよかった、彼女は彼に救済を与える筈の存在だったのだから。
その筈だったのに。
『 大好きも 愛してるも 全部嘘だよ 』
全てから手を離したのは彼女の方で、広い部屋に残されたのは鍵盤に触れることすら出来ない指先だけ。
それでも価値を見出し求め続けようとするおとなたちの手に、こどもは応え続けた。
今更他の生き方を一人で見つけられる筈もなく、彼女の真似をして笑いながら、芽吹き始めた何かを踏み潰して。
繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し──漸く、遂に。
かれらも予期せぬ形で、それでもかれらの願いは成就し、必要の無くなった枷は代償を伴って地に落ちた。
ここに残るは役目を果たし終えた残骸である。
在るかもしれない心から目を背け否定し続けた、おとなに成り切れもしない愚かなこどもの果て。
けれどそれもまた自己防衛にしか過ぎず、向き合うにはあまりにも多くを取り零してしまった。
ただの人のようにそれら全てを感じ取れるようになったとき、何もかも■■してしまうことを本当は理解している。
だからこどもは──神園斎は、他者に託し続けた。
与えられた、“先生”などという使いやすい立場を利用して。
中身の伴わない空虚な言葉を吐き出す日々を、終末が与えられるその時まで続ける選択をした。
そうやってずっと、疾うに失われたぬくもりを忘れられないまま、自ら終わることも出来ないまま。
──あの日、
彼に手を差し伸べたのも、たしか、そのためだった。
同じ色が垣間見えたから、それだけのためだった。
道が変わればいいと望んだだけ、下らない世界に対する復讐に巻き込もうとしただけ。
ああでも、もう。
切っ掛けなどは最早、些細なことで。
惹かれてしまった事実は変えられない。
救われた事実は覆せない。
己を護り続けることよりも、その手を取りたいと願ってしまった。
ならば停滞し続けることは不可能なのだ。
どれだけ否定を重ねたところで、所詮息を続ける人間に過ぎないのだから。
Ⅹ. 動き出す朽ちた秒針
「…………あかね、俺、間違っている?」
答えは無い。応えてくれる筈がない。あの日から声は聞こえない。
答えは無い。分からないままおかしな記憶だけが降り積もっていく。
向こうの世界で、有り得ない選択を繰り返している。
「………………、…… 」
吐き出そうとした言葉は声にはならなかった。
それでもただ、君だけをと。
願ってしまうことの愚かしさばかりが。

[822 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[375 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[396 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[117 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[185 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
アンドリュウ
紫の瞳、金髪ドレッドヘア。
体格の良い気さくなお兄さん。
料理好き、エプロン姿が何か似合っている。
ロジエッタ
水色の瞳、菫色の長髪。
大人しそうな小さな女の子。
黒いドレスを身につけ、男の子の人形を大事そうに抱えている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
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アンドリュウ 「ヘーイ!皆さんオゲンキですかー!!」 |
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ロジエッタ 「チャット・・・・・できた。・・・ん、あれ・・・?」 |
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エディアン 「あらあら賑やかですねぇ!!」 |
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白南海 「・・・ンだこりゃ。既に退室してぇんだが、おい。」 |
チャット画面に映る、4人の姿。
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ロジエッタ 「ぁ・・・ぅ・・・・・初めまして。」 |
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アンドリュウ 「はーじめまして!!アンドウリュウいいまーすっ!!」 |
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エディアン 「はーじめまして!エディアンカーグいいまーすっ!!」 |
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白南海 「ロストのおふたりですか。いきなり何用です?」 |
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アンドリュウ 「用・・・用・・・・・そうですねー・・・」 |
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アンドリュウ 「・・・特にないでーす!!」 |
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ロジエッタ 「私も別に・・・・・ ・・・ ・・・暇だったから。」 |
少しの間、無音となる。
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エディアン 「えぇえぇ!暇ですよねー!!いいんですよーそれでー。」 |
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ロジエッタ 「・・・・・なんか、いい匂いする。」 |
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エディアン 「ん・・・?そういえばほんのりと甘い香りがしますねぇ。」 |
くんくんと匂いを嗅ぐふたり。
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アンドリュウ 「それはわたくしでございますなぁ! さっきまで少しCookingしていたのです!」 |
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エディアン 「・・・!!もしかして甘いものですかーっ!!?」 |
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アンドリュウ 「Yes!ほおぼねとろけるスイーツ!!」 |
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ロジエッタ 「貴方が・・・?美味しく作れるのかしら。」 |
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アンドリュウ 「自信はございまーす!お店、出したいくらいですよー?」 |
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ロジエッタ 「プロじゃないのね・・・素人の作るものなんて自己満足レベルでしょう?」 |
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アンドリュウ 「ムムム・・・・・厳しいおじょーさん。」 |
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アンドリュウ 「でしたら勝負でーすっ!! わたくしのスイーツ、食べ残せるものなら食べ残してごらんなさーい!」 |
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エディアン 「・・・・・!!」 |
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エディアン 「た、確かに疑わしい!素人ですものね!!!! それは私も審査しますよぉー!!・・・審査しないとですよッ!!」 |
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アンドリュウ 「かかってこいでーす! ・・・ともあれ材料集まんないとでーすねー!!」 |
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ロジエッタ 「大した自信ですね。私の舌を満足させるのは難しいですわよ。 何せ私の家で出されるデザートといえば――」 |
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エディアン 「皆さん急務ですよこれは!急務ですッ!! ハザマはスイーツ提供がやたらと期待できちゃいますねぇ!!」 |
3人の様子を遠目に眺める白南海。
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白南海 「まぁ甘いもんの話ばっか、飽きないっすねぇ。 ・・・そもそも毎時強制のわりに、案内することなんてそんな無ぇっつぅ・・・な。」 |
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白南海 「・・・・・物騒な情報はノーセンキューですがね。ほんと。」 |
チャットが閉じられる――