
最初に出会ったのは、ただの貧しい村人だった。
彼らは異形の兔を恐れ敬い、丁重に扱った。
その時出会ったのはとある少女だった。
寂しがり屋の彼女に近寄ると、最初は怖がられたけれど
いつしか毎日のように兔を抱きしめてくれた。
それはひどく温かくて、優しいものだった。
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少女 「角は怖いけど、君は好き」 |
そんな風に言って、日々の事を話してくれた。
今日は美味しい木の実が捕れたとか、濃紫に染まったのが食べごろだとか
秋ごろに祭りがあるのだとか、その時もしも
好きな男の子が誘ってくれたら、きっと嬉しくて飛び跳ねてしまうわ、とか。
他愛無い話でも、異形の兔にとっては初めて知ることばかりだった。
小さな出来事も少女にとってはキラキラとした世界のようで
それを語る彼女の世界は、兔にはないもので、きっとそのとき
ひとのいろどる世界に 小さな恋をした。
ある日出会ったのは、商人だった。
彼曰く、角兔など見たのははじめてだという。
文献には残っていたけれど、それは遠い地の話。
外見も違うから別種だろうと言われた。
彼は家族を養うために各地を旅しては名品珍品を集めているのだという。
商人の率いる旅団に属する多くもそうだった。
兔に家族の思い出、というのは存在しなかったから、
遠い地の家族の話をする人々が美しく思えた。
その後連れていかれたのは、王様のところだった。
顛末から言えば、兔はその場所から逃げおおせた。
だいすきなばしょだった。
家族だと言ってくれたから。
随分長い間彷徨って それでも兔は生きていた。
だって、「また会おう」と言ってくれたから。
あるとき、優しい老婆に出会った。
彼女は兔を匿って、日々少ない食料を分け与えてくれた。
その代わりに、杏を持って行った。
体調を崩しやすい老婆が、少しでも笑顔になってくれればと。
家族が好きなのだという彼女の事が、兔も好きだったから。
出会ってはじめての冬、彼女は山に消えた。
それでいいのだと彼女は言った。
口減らしだった。
雪の寒さに震える事がなくなるまで、兔は老婆の傍にいた。
あるとき、旅の一座に出会った。
各地の歌を歌う彼らは、多くを知っていた。
ある日の夜、1人の楽士と月をみあげてたら
彼は角兔は凶兆なのだという。
灯りを受け、黒曜に黄金の光が入る瞳に まるで月のようだと言いながら
2つ、うたをうたった。
金の衣に黒き角
異形なるは兔の面
魔に属せしは其の心
数多の命を刈り取らん
其方の名はアルミラージ
英雄と魔女の宝物なりや
唄えや唄えと 言うなれば
月に雪にと花なれど
今宵歌うは玉兎月影
月に在りては臼と杵
持ちてや唄え 歌えや歌え
霊薬妙薬合わされば
不老長寿も夢ならず
『なあ、お前はどちらになりたい?』
兔は己を知らなかった。
だからこそ、選べるならと願った。
自身と似た姿かたちをした 兔、に関する事を知ろうとしたのは
その頃だった。
もしもあの夜空に煌々と輝く月にまで行けたなら
この身を焼いて、灰になってでも
それでも、もしも行けたなら わたしは――
ある日、兔は女に出会った。
橋の上で、月をぼうっと見上げていた。
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「なあに、あなた、月へ行きたいの? いいわ、連れて行ってあげましょう。 何が叶うとも限らないけれど」 |
酷く白い顔をした、美しい人だった。
一も二もなく、兔は彼女と共に連れ立った。
アンズ
人を愛した、不老の角兔の怪異。
玉兎に憧れ、その身を月へと投げた。
憧れは、現実になった。
きっとそれは、奇跡だった。
兔は、喜んだのだ。
だってきっと、その霊薬があればきっと――――家族にだってもう一度、会えるはずだから。
渡瀬陽和
【烈風電信】
声を届ける異能を持つ。
ただの女子高生。
――淡い光を放つ液晶画面に、目を向けた。
声は絶え間なく届いている。
すぐ横で、コヨリが静かに声を荒げている。
変わらないな、と思う。
どこにいてもコヨリは変わらない。
私みたいに、膝を折ったりしない。
辛い事も、苦しい事も。
何があっても。
その強さがずっと、眩しくて。
私はずっと 何も出来ないままなの?
ずっとうそばっかり。
自信なんてない。
何か出来るなんて、そんなの思い上がりで。
だけど
だけど信じたくて
だから毎日勉強した。
だから手を伸ばした。
だけど、いつか報われるかなんてわからない。
自信なんてない。
不安で、心もとなくて、いつだって崩れそうで
だけど
そうだ。
そんな痛みはずっと、感じていたことじゃないか。
肩にかけられた上着を握りしめて、
液晶画面に、今度こそ視点を合わせる。
絶え間なく声が届いている。
誰かの声が、誰かの思いが、誰かの健闘が。
だったら私はどうするの?
ここで膝を抱えて
ただ全てが終わるまで待ち続けて
誰かの「声」を聴いているだけ?
それが、私の望み?
違う
【烈風電信】-アネモイコール-
私の異能。
ただ届けるだけ、ただそれだけの
”何の役にも立たない異能”。
違う。
そうじゃない。
そう、だって
今ここで、使うべき。そうでしょう?
例え前線から退いたとしても
例え交える剣も持たなかったとしても
例え 影響力 なんて、最初からなかったとしても!
【存在証明】-アネモイコール-
渡瀬陽和
――『ワタラセヒナが問いかけます』――

[816 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[370 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[367 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[104 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
[147 / 500] ―― 《大通り》より堅固な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
白南海
黒い短髪に切れ長の目、青い瞳。
白スーツに黒Yシャツを襟を立てて着ている。
青色レンズの色付き眼鏡をしている。
エディアン
プラチナブロンドヘアに紫の瞳。
緑のタートルネックにジーンズ。眼鏡をかけている。
長い髪は適当なところで雑に結んである。
チャット画面にふたりの姿が映る。
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・」 |
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白南海 「・・・怖いだろうがよ。」 |
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エディアン 「・・・勘弁してくれませんか。」 |
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白南海 「ナレハテってあの!アレだろォッ!!?ドッロドロしてんじゃねーっすか!! なんすかあれキッモいのッ!!うげぇぇぇぇうげえええぇぇぇ!!!!!!」 |
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エディアン 「私だって嫌ですよあんなの・・・・・ ・・・え、案内役って影響力どういう扱いに・・・??私達は関係ないですよね・・・????」 |
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白南海 「あんたアンジニティならそーゆーの平気じゃねーんすか? 何かアンジニティってそういう、変な、キモいの多いんじゃ?」 |
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エディアン 「こんな麗しき乙女を前に、ド偏見を撒き散らさないでくれます? 貴方こそ、アレな業界の人間なら似たようなの見慣れてるでしょうに。」 |
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白南海 「あいにくウチはキレイなお仕事しかしてないもんで。えぇ、本当にキレイなもんで。」 |
ドライバーさんから伝えられた内容に動揺している様子のふたり。
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白南海 「・・・っつーか、あれ本当にドライバーのオヤジっすか?何か雰囲気違くねぇ・・・??」 |
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エディアン 「まぁ別の何か、でしょうね。 雰囲気も言ってることも別人みたいでしたし。普通に、スワップ発動者さん?・・・うーん。」 |
ザザッ――
チャットに雑音が混じる・・・
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エディアン 「・・・・・?なんでしょう、何か変な雑音が。」 |
ザザッ――
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白南海 「ただの故障じゃねーっすか。」 |
ザザッ――
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声 「――・・・レーション、ヒノデコーポレーション。 襲撃に・・・・・・・・いる・・・ 大量・・・・・こ・・・・・・死体・・・・・・ゾ・・・・・・」 |
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声 「・・・・・ゾンビだッ!!!!助け――」 |
ザザッ――
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白南海 「・・・・・・・・・」 |
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エディアン 「・・・・・・・・・」 |
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白南海 「ホラーはぁぁ――ッ!!!!
やぁぁめろォォ―――ッ!!!!」 |
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エディアン 「勘弁してください勘弁してくださいマジ勘弁してください。 ホラーはプレイしないんですコメ付き実況でしか見れないんですやめてください。」 |
チャットが閉じられる――