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そうして。
桃色髪の、少女が一人。
女児というには、背も伸びた。
料理も覚えた。勉強だって、少しは真面目にするようになった。
きっと少しずつ、自分は大人に近づいている。
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安里菜々 「……あの、さ」 |
もう、子どもじゃないんだから。
やることなんて、決まってるんだ。
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童女 「……ナナじゃん。どうしたの」 |
頬に乗る、ハートのタトゥー。
わかってる。わかっていた。
この人は、姉なんかじゃない。
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安里菜々 「……謝りたくって。こないだは、ごめんって」 |
けれど。
安里菜々は思うのだ。
姉じゃないから、何だというのだろう。
自分を守って戦ってくれていることに、変わりはないというのに。
イバラシティのために、戦ってくれていることに、変わりはないというのに。
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安里菜々 「あたしね。……やっぱりキミのこと、おねえちゃんとしては見ることができない」 |
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安里菜々 「おねえちゃん……、ばかだけど。やっぱり、たった一人のおねえちゃんだし」 |
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安里菜々 「……キミとは違うって、そう思うんだ」 |
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安里菜々 「だから、……ええとね。はっきり言うけど。 キミのこと、あたし、よく分かんなくて。だから、変なこととか、言っちゃった。 それを、謝りたかったんだ。……ごめんね」 |
安里菜々にしては、少し、言葉を選んだ。
けれど、それは相手が怖いからじゃない。
相手の得体が知れないからじゃない。
それが、正しく、"謝罪"であるからだ。
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安里杏莉? 「……ばっかだなあ。ナナは」 |
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安里杏莉? 「別に、気にしないって。だって私は、ナナのお姉ちゃんなんだから!」 |
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安里菜々 「いやあんたあたしの話聞いてた???
いや、べつに、いいけど……はあ」 |
……なぜだろう。
何故か謝るんじゃなかったとか思いたくなってくる。
いやそんなことはないはずだ。
自分は確かにとてもいけないことを言ったし、
それで謝るのは悪いことじゃない。 ……悪いことじゃないんだけど。
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安里菜々 「…………。
あのさ。……その、あたし。今までちゃんと、キミの話聞いてこなかったなって、思ったんだ」 |
気を取り直す。
そうだ、……過ちは正した方がいいし、そうなるに至った理由も、きっと追及するべきだ。
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安里菜々 「……教えてほしいんだ。
キミと、……キミのダーリンについて」 |
何も知らないのは、嫌だった。
何も知らないままこじれるのは、もっと嫌だった。
自分の取り柄、とまでは思っていないけれど。
こういう時、素直に尋ねることができるのは、きっと自分が自分だからなのだろう。
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安里杏莉? 「…………」 |
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安里杏莉? 「……いいよ。ナナ。
じゃあ、会わせてあげる。ダーリンに」 |
ほんのちょっとの、思考の間。
彼女は思ったより、あっさりと、あっけらかんと、言ってのけた。
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安里菜々 「え。いいの?」 |
さすがにちょっとびっくりした。
思った以上に、その。あっさりしすぎていて。
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安里菜々 「あ。いや、うん。なら、会う。会うよ。 ………何でこんなに警戒してたのか、ばかばかしくなってきた」 |
安里菜々は、一つ学ぶ。
"警戒"は、もちろん、される方も悪いのだけれど。
……する方にもきっと、ちょっとくらいは、非があるのだと。
いや全部が全部、そうであるとは、限らないのだけれど。
それでも、……そうだ。
先入観って、こわいことだな、って。
そう、思った。
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○月✕日
さっき、家の前で杏莉さんに会った。
怪我をしたらしくて、包帯を巻いていた。
包丁で切ったって、そう言っていたけど、
一体どうやったらあんなレベルで手を切るんだろう。
母さんに聞いても苦笑いをしていた。
……どれだけ、不器用なんだ。杏莉さん……
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[787 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[347 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[301 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[75 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
ザザッ――
画面の情報が揺らぎ消えたかと思うと突然チャットが開かれ、
時計台の前にいるドライバーさんが映し出された。
ドライバーさん
次元タクシーの運転手。
イメージされる「タクシー運転手」を合わせて整えたような容姿。初老くらいに見える。
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ドライバーさん 「・・・こんにちは皆さん。ハザマでの暮らしは充実していますか?」 |
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ドライバーさん 「私も今回の試合には大変愉しませていただいております。 こうして様子を見に来るくらいに・・・ですね。ありがとうございます。」 |
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ドライバーさん 「さて、皆さんに今後についてお伝えすることがございまして。 あとで驚かれてもと思い、参りました。」 |
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ドライバーさん 「まず、影響力の低い方々に向けて。 影響力が低い状態が続きますと、皆さんの形状に徐々に変化が現れます。」 |
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ドライバーさん 「ナレハテ――最初に皆さんが戦った相手ですね。 多くは最終的にはあのように、または別の形に変化する者もいるでしょう。」 |
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ドライバーさん 「そして試合に関しまして。 ある条件を満たすことで、決闘を避ける手段が一斉に失われます。避けている皆さんは、ご注意を。」 |
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ドライバーさん 「手短に、用件だけで申し訳ありませんが。皆さんに幸あらんことを――」 |
チャットが閉じられる――