
思えば、ハルちゃんは親戚の内の誰にも似ていなかった。
その明るくてふわふわの髪も、目尻の下がった目つきも、光を反射して煌めく瞳の色も……
どれ一つとして、あの子の両親の持つ形質ではない。
どうして、今まで疑問に思わなかったのだろう。
それさえもワールドスワップの影響だっていうの?
いやだ。
認めたくない。考えたくもなかった。
ハルちゃんが。
生まれた時から見守ってきた、大好きな従妹が。
おねえちゃんと慕ってくれた、妹にも等しい存在が。
──ワールドスワップで作られた、ただの幻影だっただなんて。
ファルカ・フォール
ふらついて、膝をつく。
自分が立っている地面が、まるで泥か何かになってしまったかのような感覚。
地面に手をついても、その感覚すら酷く頼りない。
立ち上がるどころか、顔を上げることさえもできずにいる。
彼女の顔を見られない。見るのが、恐ろしい。
「……そんなに怖がらないでよ」
ハルちゃんと同じ、その顔を。
同じ色の瞳を。
「ねぇマナカちゃん、ここがどこだか思い出して?
……分かる? ここはイバラシティの拠点。
アンジニティの側についてるやつは入れない。そうでしょ?
だから私はあなたの敵じゃないってこと」
私の返事を待たずに語る声は少し低く、
感情豊かなハルちゃんからは考えられないほど平坦だ。
それでも、それがハルちゃんと同じ声質だと分かってしまう。
あの子があと数年立てば、
きっとこんな声も出せるのだろうと想像ができてしまう。
「というのもね、私アンジニティのやつらが嫌いなんだぁ。
散々罪人同士で奪い合ってきたくせに、今更一致団結がんばりましょうなんてさぁ」
ハルちゃんと彼女。
他人の空似であってほしいと思うほど、
違う所を探そうとすればするほど、
似ているところを見つけてしまう。
「……と言っても、私は非力な女の子だから。
特段あなた達の味方ってワケでもないけどね。
向いてないんだよね~、戦うとか、そういうの」
……ああ、でも。笑い方は違うな。
顔を上げれば、視界に映るのは薄っぺらな、
感情の籠もらない作り笑い。
ハルちゃんはそんな風に笑ったことは一度もなかった。
そうやって笑うのは私の方。
あれは、嘘つきの笑いだ。
……皮肉だな。
イバラシティでは似てない従妹だった私達が、
アンジニティの彼女とは似てるだなんて。
「……なんか言ってよ~。寂しいじゃん。
せっかくこのタイミングなら、マナカちゃんに分かってもらえると思ってお話しに来たのにぃ」
彼女は口を尖らせ、つまらなそうに小石を蹴飛ばす。
それに対して、私は何も言えない。
だって、言葉を交わしてしまったら、
彼女がハルちゃんだと認めてしまったら。
なんだかそれで全て終わってしまうような気がして。
頭上から彼女の溜息が聞こえた。
続けて、まぁいいや、と独り言のような呟き。
「……ま、急に言われたって心の整理つかないよね。
いいよいいよ、ちょっとあいさつしたかっただけで、もう帰るから。
CrossRose……だっけ? 話すだけならあれでもできるし」
くるり、踵を返して彼女はこの場を去ろうとする。
「あ……」
ハルちゃん。
そう呼びかけそうになって、違う、それは彼女の名前じゃないと思いとどまる。
そんなんだから名前を呼ぶこともできず、ただ立ち去る彼女をぼんやりと見送った。
そうしながら、私はあることに気づいていた。
ハザマに来るたび、私が家族を探した理由。
それはリストに家族の名前がないのを見て安心したかったから、ではない。
私は……そこに"家族の名前を見つけたかった"んだ。
イバラシティと同じ名前で、同じ姿で、イバラシティ所属と表示される所を見て安心したかった。
私の家族は侵略者なんかではないと、確認したかった。
──喉から、引き攣れた笑い声が漏れた。
私は、自分の一時の安心のためなら家族がこんな戦いに巻き込まれても構わない。
どころか、それを望んでさえいたなんて。
どこまで身勝手なんだ、私は。
「ああ、そうだ」
数歩進んだ所で彼女が脚を止めた。
首だけを少しこちらに向けて、口を開く。
「私は、本来の自分の姿とイバラシティでの姿は違うけど」
……。
「向こうでもこっちでも、見た目が変わらない人を見たことがあるんじゃない?」
……その話は。
なんで。
どうして、あなたの口からその名前が出てくるの?

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
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白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
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カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
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白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
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カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
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カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
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白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
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白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
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カグハ 「違うよー。」 |
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カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
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白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
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カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
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カグハ 「・・・・・」 |
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白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
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カグハ 「・・・・・その・・・」 |
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カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
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カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
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カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
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カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
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白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
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白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――