女は笑みを浮かべながらノートを開き、ペンを持つ。
自分の半身とノートを介した会話ができるようになるとは思ってもなかった。
最初のきっかけをつくってくれた先生や、交換日記を提案してくれた守屋くんにはとても感謝している。
最初にこのノートを見た時は笑いが抑えきれなかったのだ。
だって、私は陽が喋った事を聞いている事を知っている。
陽が書いたものをこの目で全部見ているのだから。
それでも、書いて会話をしようとしてくれている事への嬉しさは抑えることができなくて。
にまにまと幸せそうな笑みを浮かべている。
こんな所、誰かに見られたら頭大丈夫か?と疑問に持たれるのではないかと思うほどだ。
だって
こんなの
幸せでしかない
セシリアへ
あんたに一つお願いしたいことがあるんだ
俺はセシリアが行動している時のことが何一つわからないのが、怖い
生きるために必要なことをしているのはもう、ちゃんと聞いたから理解ってるけど、
俺一人だけ何も覚えてないのは嫌なんだ
だから、だから俺と、交換日記をしないか?
俺のやってることは全部わかってるだろうけど、これならアンタと会話ができるだろ
毎回ビデオレターを作るのは無理だから、これならなんとかなるかと思ったんだ
俺はアンタが何をしているか知りたいし、アンタ自身のことを知っていきたいから
日記っつーか文通みたいな感じだけど……頼む
陽くんへ
交換日記!
名案ね、陽くんが私のことを理解しようとしてくれるのは嬉しい
でも、夜の事は全部が全部を書くのは難しいわね
私は……血をいただく相手はいつも選んでいるけれど、名前すら聞かないことが多いの
相手もそれを了解しているし……その方が後々困ったことにならないから
だから、あなたがそれでも良いと言うのなら、出来る限りの事を書いていこうと思うわ
セシリアへ
理解ることだけで構わない
でもせめて、俺の知ってるやつとなにかあったなら、書いてほしいんだ
俺だけ知らないってのが、やっぱり嫌だから
あ、それと……俺のパソコンでなんか見てたか?
陽くんへ
わかったわ
今日はね、いつもお世話になってるバーで会った人に血を頂いたわ
血をいただくには同意の上で、対価を支払ってるのだけど……そこはちょっと割愛するわね
あぁ、パソコン!
そう、それは燕くんに使い方を教えてもらったの、お料理のレシピが見たかったから
チョコを作ったときから少し興味があって……私が作れば、陽くんも色々食べることができるでしょう?
でもどうしてわかったの?
セシリアへ
わかるに決まってるだろ!
あんなわかりやすい所にレシピだのタイピング練習のサイトだのブックマークしてあったら
でも、そうか……燕から聞いたのか、なるほどな
料理は……あるもので作る分にはいいけど……無茶しないでくれよ
部屋燃やされたりしたら困るし
それはそうと、あんたは俺のすること出来る限り見ないようにするとかは、やっぱりできないのか?
その、やっぱり風呂とか、見られたくないものもあるわけで……
陽くんへ
わかりやすかったの?そう……よくわからないけれどそうなのね
でも燕くんのお陰で少しはパソコンが使えるようになったのよ
私は機械全般使い方がよくわからないから……
見てるだけじゃ覚えられないのよね
そう、見たくなくてもずっと見ているわ、陽くんの目は私の目でもあるんだもの
でも、それは私の意識がはっきりした子供の頃からずっとだから今更よ?
見ていることが当然で日常なの
普段の行動に干渉したりは絶対にしないから……そこは安心してくれると嬉しいわね
あ、今日はこのお返事を書くためだけに変わったから、紅茶を飲んだだけよ
またね
ノートを読んだ男はほぅ、と息をつく。
期待はしてなかった。
面倒だと切り捨てられるのではないかとも心の何処かで思っていた。
けれども半身の女は律儀に文字で返してくれたのだ。
自分の字とは違う、綺麗な文字は、自分との性格の違いがよくわかる。
自分とこの文字を書いた女が同じ身体を共有した存在であるなんて信じられないくらいだ。
全てを見られているのは今も嫌だけれど。
それでも少しずつ、少しずつ考えないようにと意識しながら生活を送っている。
確かに一度も自分の日常の行動や言動などについて干渉されたことはないのだから、信じるべきなのだ。
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陽 「いつかは……全部受け入れないといけないんだよな」 |
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陽 「吸血鬼であることも、全部……」 |
いつの間にか人のものではなくなった、最早牙としか呼べなくなった八重歯に手を触れた。
もうそう遠くないうちに、きっと、自分はこの牙を誰かの首筋に突き立てるのだ。
次にあの衝動が自分を襲った時、耐えれる自信はまったくない。
――ヨナ
―――新
――――高国
―――――鐡
――――――せんせい
手放したくない人達の姿を次々と思い浮かべて、胸を抑える。
何が起こっても、俺が衝動を抑えられなくなっても、皆そばにいてくれる?
本当に?
およそ人ではなくなってしまっても?
不安の種は尽きない。
矢継ぎ早に突きつけられる真実に本当は目を背けていたかった。
それでも少しずつ、前を向く。
受け入れなければ
望む未来を手にする為に
認めさせなければ
俺自身がこの世界で生きていく為に

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
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白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
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カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
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白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
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カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
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カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
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白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
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白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
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カグハ 「違うよー。」 |
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カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
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白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
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カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
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カグハ 「・・・・・」 |
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白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
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カグハ 「・・・・・その・・・」 |
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カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
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カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
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カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
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カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
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白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
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白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――