
煤けた古書と黴の臭い。蝋燭が頼りなく照らし出す薄暗い城の地下室。階上は悪趣味な程に装飾されているくせに、此処だけは実に質素だった。
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オニキス 「「相変わらずしみったれた部屋だな。ご自慢の魔術でもちっと明るく出来ねえのか」」 |
気取った仕草で鼻先を鳴らし、木造りの椅子に深々と腰掛けるのは少年。くすんだ金糸の隙間から覗く緋色は、爛々と両の瞳に淡い焔を揺らす。
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銀髪の司書 「「駄目よ。古来"ウィッチクラフト"というものは、不要な行使はしないものなの」」 |
つんと唇を尖らせてみせるのは女。外見年齢でさえ優に成年に達しているというのに、子供染みた仕草も不思議と似合っている。手入れの行き届いた銀髪が所作に合わせて揺れた。
現代に残る実践魔術と違って日常に組み込まれていたのが特徴じゃなかったのか、そう少年が胡散臭そうな瞳を向けると《最後の魔女》は笑ってみせた。
「じゃあ今日はその理念を深く掘り下げてみましょうか。青い背表紙のを開いて」
――*――*――*――
純粋な吸血鬼"真祖"に睡眠は必要ない。休息を得る為に著しく活動を低下させる事はあるがそれでも意識に霞がかるすらせず、感知範囲に異常があれば平時と何ら変わりなく反応・行動を開始する。人間やその他の生物とは根本的な生態が異なっていた。
だが――吸血鬼は『夢』を見る。
正確には"見るようになった"というのが正しいか。長大な寿命を持つ吸血鬼は自然、その永きに渡る歩みと同じだけの記憶を溜め込む。時に身を任せれば多くは曖昧になり、風化し、やがて年月の境さえも区別がつかなくなっていく……幾らかの長命種がそうであるように。されど吸血鬼はその末路をよしとしなかった。当初は魔術的な手段によって直接自己を整理していた彼らだったが、それは決して無視できない危険が伴う上に非常に面倒な行為だった。
ごく自然に、安全に、手間を省いた記憶の整理手段――そうして辿り着いた先が夢であった、ただそれだけのこと。
そう、だから。
人間のような感傷的な要因でその内容に影響が及ぶなど、決して有り得ない。全てはただの偶然だ。彼ら彼女らが直後に男の元を訪れたのも、
あの関係に名前を付けるとしたら――きっと、『教師』と『生徒』だった、ということも。

[770 / 1000] ―― 《瓦礫の山》溢れる生命
[336 / 1000] ―― 《廃ビル》研がれる牙
[145 / 500] ―― 《森の学舎》より獰猛な戦型
[31 / 500] ―― 《白い岬》より精確な戦型
―― Cross+Roseに映し出される。
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白南海 「うんうん、順調じゃねーっすか。 あとやっぱうるせーのは居ねぇほうが断然いいっすね。」 |
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白南海 「いいから早くこれ終わって若に会いたいっすねぇまったく。 もう世界がどうなろうと一緒に歩んでいきやしょうワカァァ――」 |
カオリ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、橙色の着物の少女。
カグハと瓜二つの顔をしている。
カグハ
黒髪のサイドテールに赤い瞳、桃色の着物の少女。
カオリと瓜二つの顔をしている。
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カグハ 「・・・わ、変なひとだ。」 |
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カオリ 「ちぃーっす!!」 |
チャット画面に映し出されるふたり。
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白南海 「――ん、んんッ・・・・・ ・・・なんすか。 お前らは・・・あぁ、梅楽園の団子むすめっこか。」 |
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カオリ 「チャットにいたからお邪魔してみようかなって!ごあいさつ!!」 |
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カグハ 「ちぃーっす。」 |
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白南海 「勝手に人の部屋に入るもんじゃねぇぞ、ガキンチョ。」 |
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カオリ 「勝手って、みんなに発信してるじゃんこのチャット。」 |
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カグハ 「・・・寂しがりや?」 |
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白南海 「・・・そ、操作ミスってたのか。クソ。・・・クソ。」 |
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白南海 「そういや、お前らは・・・・・ロストじゃねぇんよなぁ?」 |
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カグハ 「違うよー。」 |
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カオリ 「私はイバラシティ生まれのイバラシティ育ち!」 |
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白南海 「・・・・・は?なんだこっち側かよ。 だったらアンジニティ側に団子渡すなっての。イバラシティがどうなってもいいのか?」 |
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カオリ 「あ、・・・・・んー、・・・それがそれが。カグハちゃんは、アンジニティ側なの。」 |
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カグハ 「・・・・・」 |
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白南海 「なんだそりゃ。ガキのくせに、破滅願望でもあんのか?」 |
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カグハ 「・・・・・その・・・」 |
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カオリ 「うーあーやめやめ!帰ろうカグハちゃん!!」 |
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カオリ 「とにかく私たちは能力を使ってお団子を作ることにしたの! ロストのことは偶然そうなっただけだしっ!!」 |
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カグハ 「・・・カオリちゃん、やっぱり私――」 |
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カオリ 「そ、それじゃーね!バイビーン!!」 |
チャットから消えるふたり。
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白南海 「・・・・・ま、別にいいんすけどね。事情はそれぞれ、あるわな。」 |
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白南海 「でも何も、あんな子供を巻き込むことぁねぇだろ。なぁ主催者さんよ・・・」 |
チャットが閉じられる――