
不思議な二人組との会話を終え、買える物を吟味していくつか見繕えば、まあ十分でしょ。
特に待ち合わせ場所を決めていたわけじゃないけれど、元の場所に戻るのが一番事故が少ない。
そう思ってキャンプから少し離れたところに戻っていくと、フーちゃんが片手を挙げて出迎えてくれた。
いない間に誰かと話したのかな、少なくとも甲冑姿で置物みたいな状態じゃなくなっていた。
やっぱりうちができることには限界がある。
でも、だから人は協力する。
カバンを持っていない、空いたほうの手を大きく振って笑う。
「いやー、並んだわ〜。 最初ここ来たとき買い物する余裕なかったもんねー」
木の根の分かれ目に座りながら、何がフーちゃんを元気にしたのか知りたくないといえば嘘だけどそれは踏み込みすぎかな、と代わりにカバンを開ける。
取り出したのは最低限の栄養、詰め込みました!な感じのバー型食料。
フーちゃんにいくつか渡すと、早速一つ開けてはかぶりつく様子に小さく笑う。
特にこの世界でおなかがすいたと思うことはなかった。
それでも何かを食べるというのは生きている証拠で、特に運動系のフーちゃんには効くだろう。
と思っている間にもう飲み込んでいた。
「つまらせないようにね?」
同級生に対する言葉かな、とも思うけど。
「よく噛んでね?」よりはましでしょ……と考えてるとフーちゃんが顔をあげる。
視線を追えばツナグ君。フーちゃんに続いて手を振って迎え入れる。
「ごめごめ、ちょっと遅くなった。
結城の妹に会って話し込んじゃった」
……みうちゃん、だっけ。お守りの異能とへらへらしたユッキーの後始末に追われてる印象で、きちんと話した事もなければあだ名もつけてないや。
今度話しかけても大丈夫かな……?
なりりともあのとき以来だし、女の先輩だからこそ言えることとかあったらきけるのうちだけじゃん!っと、そういうのチャンスを見つけて、いや見つけられなくても作っていこ!
「あ、ツナグくん、おかえりー。 うちも今帰ってきたとこ」
いるかな?と思ってカバンからもう一本エナジー棒を出して振れば。
「あ、エナジー棒じゃん。俺も買ったそれ。
やっぱ適当に拾った食べれそうなもの焼く生活ってアレだよなー」
さすがツナグくん。彼も買い物を終わらせてきたみたい。
適当に拾った、って言うか最初から持ち物にあったあの……あれは結局なんだったんだろう……
ここでの時間が一時間ごとなのをいいことに、というかVRで悪くなるとかそういう仕組みはのせてないのかな、駄目になりそうにないからって食べてないんだよね……折角料理してもらったのに。
エナジー棒とかになれる前にいっちゃうしかないよね……食べ物捨てるとか論外だし。
「流石にちょっとリスキーだったしね〜
……向こう、大丈夫そうだった?」
とりあえず襲われる心配が無い場所で別行動して集合したなら情報交換でしょ。
「大丈夫そうだったよ。
……向こうもなんかいろいろあるっぽいけど、
とりあえずはあいつも信用できるって言ってた」
あー……やっぱり無事平穏とはいかないか~……
いろいろの方向によってはうちなんもできないかもだけど、やっぱ声かけとくかな……
「あれ、姉ちゃんにも会ってなかったか?」
ふとフーちゃんが聞く。
うちがあの二人と話してた時間もあるけど、それでも大分動いてない?
「え? あー、うん。おかえりって言われた。
……ずっとキャンプに居たっぽい」
どうしてだろう、ツナグくんの答えはちょっと声のトーンが落ちているきがした。
「えー!こんなときにお帰りって言ってくれるの、めっちゃいいやん!
なんか安心するっていうか、ほら」
……ちょっと大げさすぎたかな?っていうかうちの希望だだもれだし!
お帰りって言ってくれる家を守るため頑張ってるんだけどさあ。
「……お前らは兄弟とかこっちに居ないんだっけ」
うちの言葉で気になったのか、そんな話を振られた。
先に応えたのはフーちゃん。
「俺の妹はいねぇよ。
あっちでシロナミの話したときに『はぁ?』って言われたしな。
Cross†Roseでメッセージ送信してみたけど、届かなかったっぽいし」
「リリィ、お前の妹は?」
愛菜は生徒会の手伝いをしている。窓の施錠確認とかもしているし知られてるほうなんだろうな。
「あいな?あいなもきてないみたい。
並んでるときにリスト見たけどなまえなかったし
来てたらきっと連絡してくれるはずだから」
「だからその……ほっとしてる」
思わずこぼれた本音のあと、慌てて両手を降る。
こんな言い方をしたらお姉さんが来ているツナグくんの不安をあおるかもしれない。
「あっいやツナグくんのおねえちゃんもベースキャンプから動くことないなら安全だし!」
「そう、だな。……ん、まあ大丈夫だろ、多分絶対俺より強いし、元々しっかりしてるからなー」
ツナグくんの声にやな思いをしたとかそういうのはなかった。
なかったけど、どうしてだろう。その笑顔はちょっと固かった。
そんな顔をされたら踏み込めない。
だから、いつものようにうちは考えてることをできるだけ明るい声で、能天気を装って。
「えっツナグくんのおねえちゃん強いの!?
とは言ってもきょうだいで異能の方向が違うことはめずらしくないっかー」
うちもあいなも別方向だし。
そのくらいの軽い気持ちで軽いテンションで。すっと流すはずが。
フーちゃんもツナグくんも何かを考え始めた。
え、なに??
二人がそれぞれ何を考えてるかなんて知りようがない。
どっちかってーと話題が話題なだけにこれも踏み込めない。
あーもう、もう少しなんかあるでしょ、うち~!!
だから、考えてることをぼやくしかなかった。
二人には聞けなくても、うちは考えてることを知っててほしいし。
「んで、向こうだけど……
あの人、最初からみうちゃんたち助けてくれてたみたいだから、
あの子らにとっては恩人だし、ゆっきーがそれでいいなら、
強さは……」
苦笑い。いや、自嘲かもしれない。
これも突っ込みすぎると勘違いしたうちらの『いたいとこ』なので……ってさっきから綱渡りな話s台ばっかり選ぶの、うちも疲れてるのかな……
イバラシティのうちは健康だけどこっちでもふかふかお布団で寝たい!
「身をもって知ってるし、心強いに越したことはないけど」
「なんで助けてくれたんだろー……」
答えが出ない問いだと思っていた。
だけどそれの答えをもっている人がいた。
フーちゃんだ。
「あ、そうそう、あの金髪な。
オニキスって吸血鬼らしいんだけどよ。
あれ、ザク先だったわ。バツから聞いた」
……?
…………??
「ろー」の形で口が固まった。
っていうか全部固まった。
目が乾いてくれば起きる瞬き以外どうしようもなかった。
「は??」
これはツナグくん
「……は?」
これはうち。
『は?』以外いえなくない?言えない。わかるー(思考の逃避)
「ザクロ……先生?」
あの?
両腕に生徒をぶら下げて笑っていた先生が?
後から聞いた話年越しソバの火元管理人になりつつソバわけてもらってた、そんな生徒よりの先生が?
「え、いやちょっと…マジか。
いや…まあ特徴は……。えー、マジか……。そういうのって分かんないもんだな……」
まじな。
今でもわかんないよ。ツナグ君理解早くない?
「……はーーーー」
座ったまま太ももにひじを当て、手のひらでうつむいた額を支える。
これをすると髪の毛お化けなんだけどおばけどころじゃないって、まじ。
「人気のあるせんせが実は金髪赤目の吸血鬼で侵略側の世界の人なのにこっち側つくとか盛りすぎっしょ……」
これは髪に覆われて二人には聞こえなかったと思う。
「まあ、だとすると、結城の妹が結構信用してた理由にもなるのか」
ああ、さっき話してたって言ってたしまあ助けてくれたのが先生なら多少……かなり高圧的でも受け入れる……ものなの?
「理由はわっかんねぇけど、あいつら鍛えてるらしい。
ま、俺ができることは、バツと妹とさきちゃんを信じることぐらい、っぽいわ」
フーちゃんがエナジー棒を食べ終えると立ち上がる。
その声の力強さに、うちも顔をあげる。
「俺の手の届く範囲はすっげぇ狭い。だからよぉ、俺はお前ら信じて前に立つぜ!」
「あっちでもこっちでもスターゲイザースでの俺の役目はかわらねぇ。こっちのほうがガチで命かかってるってだけだ」
「んで、みんな生きてる。死にかけたけど、俺も生きてる。お前らのおかげで。だから、すっげぇ怖ぇけど、俺は立てる。戦える」
「んで、みんな生きてる。死にかけたけど、俺も生きてる。
お前らのおかげで。だから、すっげぇ怖ぇけど、俺は立てる」
朗々とした声は、誓いのようで。
その迷いのなさに、混乱していた自分が恥ずかしくなった。
「そうだよね」
「一番前で、魔が星とダンチなもの相手にしてんだもんね、今」
これはフーちゃんのこと。
「そうだな。三人ともしっかりしてるし、なんかあったらまた結城から連絡あるだろ」
ツナグくんのフォロー。
「うちだって、フーちゃんが前に立って、ツナグくんがタイミングを作ってくれるからアミティエ《そがい》に集中できる」
騎士の護りに、解析の共有。
ちょい、と言ってスマホを触ると。大ガラスが離れた木から飛んできて彼女の横に収まる。
「今はこういうこともできるようになったわけだし
……正直、どっちかが向こう側だったらここまで来れなかったと思う。
ツナグくんとフーちゃんが仲間で、スターゲイザーズで、よかった」
大ガラスの喉元を掻くように撫でる。カラスは目を細めている。
きっと今のうちも似たような顔をしている、と思う。
「……俺も二人居てくれてすげー助かってるよ。
俺一人だとマジでどうしようもなかったからな。
リリィもここに来て成長してるし、フタバも……いろいろ折り合いついたか?」
「俺たちなら沼でも森でも進んでいけるよな。よし、探索に戻るか!」
「汚れる道はやだな~」
立ち上がって、スカートをはたく。
あげた顔は、何よりも雄弁に。