俺があいつを好きになったのはお前が……小学校5年の頃か。
それまでは友達というか、まぁたまに会話する程度の関係だったんだけどな
へぇー、ひとめぼれとかじゃなかったんだ
おう、むしろ向こうに嫌われてた節もある
まじで!?よく付き合ってもらえたね
まぁ色々あったんだけどよ
真摯に告白したら、OKもらったって感じで
ああ、金で脅して……
ちげぇわ!
止めろお前、シャレになんねぇだろ!
冗談冗談
でもそっか、嫌われてたんだ
兄貴でも嫌われることってあるんだ
そりゃそうだろ
だいたいのやつらとは付き合える自信がある
けれど、俺を嫌うやつは一定数いる
そいつらは俺のうわべだけ見て何か言ってくる奴らだ
気にするこたぁねぇ
そのうわべ通りの事をしてやるだけさ
うわ、そいつら今生きてる?
兄貴、時折やらかすじゃん
そりゃーおまえ、たぶん大丈夫だよ
俺に文句をつけるやつは大体聖人様だからな
三日後に穴から出てきてんだろ
……あー、で?
どうやって付き合ってもらえたの?
ん、あー……。
なんだ……えーと
そういう勿体ぶりはいいから
うるせぇ、恥ずかしいんだよ!
で、なんで付き合ってもらえたの?
あー……クソッ
『不器用なところが可愛い』っつわれて……
砂糖吐きそう
うるっせぇ!
で、だ!
色々あってへこんでた時に色々あって、付き合ったんだよ!
……兄貴が、へこむ……?
この陽キャの塊が?
俺だって人間だっつぅの
一時期、頑張ってたモノがあったんだが……まー、人生賭けてるやつには当然勝てなくてなぁ
はっ?兄貴が負ける???
其れこそわかんないんだけど
当たり前だろ、俺よりすげぇやつはたくさんいる
俺は、環境があって、金があって、才能もまぁあって、顔もまぁ悪くねぇ
だけどな――
自分で顔がいいとか普通言う?
おう
事実だろ
勿論いう相手は限定するけどな
自分の長所はどんなものでも理解しておけ
ああ、で、そんな俺でも結局勝てねぇやつってのはたくさんいる
一点を磨いて磨いて磨いて……人生を賭けてきたやつらだ
あいつらは……俺とは違う
俺みたいに中途半端で終わらず、隅の隅までを極めようとする
ふぅん……それでも、負けるなんて信じらんないけど
俺に勝ち目はなくて
何度挑んでも負ける
あいつの一番を取れない
そんなことで落ち込んでた時に……ってわけよ
ふぅーん……そんな簡単に付き合えるものなんだ
いやおまえ、勿論そのころにはもう仲は改善されてたけどな?
最後の一手がそれだったってだけで
よくわかんねー
何言ってんだ
お前にだって好きな人ぐらいいるだろ
いねーよ、クラスの連中よくわかんねーし
つってるわりには、最近ご執心の子がいるじゃねぇか
ほら、あの翡翠って子
いや、それは……うん、好きだけどさ
なんだ、好きなんじゃねぇか!
どういうとこが好きなんだ?
どういうとこ!?
えー……、いい匂いがして、柔らかくて、優しくて、一緒にいると楽しくて――
だはは!!
ゾッコンかよ砂糖吐くわ!
うっせぇバーカ!
ははは、幸せそうで何よりだ
――どうせいつかはいなくなるってわかってるのにな
――え?
自分で思ってるじゃねぇか
お前とは釣り合っていないと
――いや
だから、あんな言葉を吐いた
『自分はモブキャラでしかない』と
――ちが
違くねぇよ
お前の根っこはいつまでも変わらない
――ちがう
自分で自分に価値を見出せない
他者の笑顔から価値を得ようと道化を演じる
――ちがうっ
彼女が哀れに見えたか?
同情したのか?
だから、お前は彼女と付き合った
自分の価値を得るために
違うっ!!
そうだよなぁ、自分を認めてくれる存在が手元に居れば安心できるよな?
だからあの子と付き合って
自分が泣かせる、笑わせる、悩ませる
人間らしい生活を与えて、未来を与えて
そしていつか――自分から離れて歩き出していく
止めろ!!
自己満足だ
1人の女の子の未来を作ったと
彼女の事を救ったと
この先彼女が誰と一緒になろうとも
そこで彼女が笑っていてくれるなら
自分の人生に意味があって、行動に意味があって、生きている意味があったと
うるせぇ!!
お前は、あの子を――