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[3rd Trigger ON]
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――親友に恋人ができた。
僕の親友はそれはもう酷い朴念仁で、誰に対しても悪気なしに口説き落とすとんでもない人だ。
相手となった人も例に漏れず、彼の無自覚な爆弾発言に心を揺さぶられた一人。
そう考えるとついに彼も年貢の納め時を迎えたのだろう。……その人に言われなければ一生自覚しなかったのかもしれないところが恐ろしいけど。
嬉しかった。
親友に幸せが訪れたことが。
自分なんていなくなればいいといつも言っていた彼をここに繋ぎ止めてくれる人が、できたことが。
きっとこれは彼にとって良い方向に働くだろう、そう確信した。
必要としてくれる人が身近にいることで、きっと彼の心を覆った氷は溶けていくだろう。
……そう、思っている。
それに間違いはない。この気持ちは嘘なんかじゃ決してない。
なのに。
なのに何で、こんなに胸が苦しいんだろう。
喜ばしいことなのに。
大事な親友のことなんだ、僕も自分のことのように嬉しい、それは確かなのに。
――何で、彼が別の人と結ばれたことが羨ましいのか、妬ましいのか。
何故そこにいるのが僕でないことが悔しいのだろう。
そんな感情を抱いてはいけないハズなのに。
……胸が苦しい。痛い。
然程の痛みではないのに、じわじわと脈打つように広がっていく。
これなら"蠱毒"の代償で血を吐いた方が遥かにマシだ。何でこんな気持ちが僕の中にあるのだろう……?
自問したところでわかっている。
僕が異常なんだ。彼に隣にいるのは僕だけでいいなんてバカげたことを考えて。
彼の笑顔も、優しさも、全て独り占めしたい――なんて傲慢な考えだろうか。
きっとこれだけならただの嫉妬深いだけの人間で済んだのだろう。
でもそうじゃない。
僕はこのような感情を、僕に接してくれる全ての人に等しく抱いている。
おかしい、気が狂っている以上の相応しい表現は見つからない。
親友にも。
彼の恋人にも。
兄のような人にも。
具現使いのあの子にも。
夕焼けのような暖かい彼にも――
僕を見て欲しい。ずっと、ずうっと……
僕から目を離して欲しくない。その為ならどんなことだっていとわない。
そう、例えば痛みで支配することだって――
そんなことを考えている、どうしようもない外道が僕だ。
本当は親友の隣などふさわしくも何ともない。むしろ日の目すら浴びるべきではない。ああ、なんて浅ましく汚らわしい存在か。
――――いいじゃない。一つぐらいわがままを言ったって。
心の中で声がする。
…………黙れ。
また一人、感情の首を刎ねる。
――――何でさ。今まで我慢したじゃない。
…………それが当たり前だからだ。
二人。
――――今までロクに見てもらえなかったんだからこれぐらいいいじゃないか。
…………それならこんなに人に恵まれてはいないんだ。
三人。
――――でも足りないんでしょう?
…………彼らは僕の所有物じゃない。
四人。
――――いっそのこと奪ってしまおうよ。そうしたら悩まなくて済む。
…………そんなこと許されるワケがないだろう?
五人。
――――奪って、閉じ込めて、僕だけしか見えないようにしてしまえばきっと満足できるよ。
…………黙れと言っているだろう。
――――ホントはそれを一番望んでいる癖に。
…………違う。
――――あの人たちが見てくれるなら、何だってできるのにね。殺しだって自殺だって、それこそ足開くのだって喜んでさ。
違う!
――――何が違うの?今更綺麗な顔装ったって無駄だよ。これが本当の僕じゃないか。
違う!!
<LEFT>
――――違わないよ。散々殺してきたんだもの。今更血を拭えるなんて思ってないよね?
違う!!!!
――――ねえ?
足を何かが掴む。
今まで僕が殺してきた感情の群れが、沼に引きずり込もうと笑っている。
イ マ サ ラ ニ ン ゲ ン ヅ ラ デ キ ル ト オ モ ウ ナ ヨ ?
目のえぐれた顔が、頬の削れた顔が、一斉ににたりと笑って血まみれの手で引っ張って――
「ああああああああああぁああああああああああああああああッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
蒼い稲妻がそれらを消し去り、声が止む。
「はあっ……はっ……は、あ……っう」
激しい痛みと共に血が喉を駆け上がる。
地面に落ちた紅い雫が滴る度、先程の感情の死体たちを見せつけるような気がして少し寒気がする。
「……違う、僕は……僕は……」
僕は、人だ。人でなくてはいけないんだ。
でなければ、僕に課せられた任を果たすことが――
「……釣れないじゃないか。せっかく可愛い甥が悩んでいるのを何とかしてあげようと思ったのに」
背後から女性の声が聞こえた瞬間、先程から感じていた寒気がより明確に感じられる。
その声はかつての面影を残しながらも酷く狂気的で……自分を保っていなければすぐにどうにかなってしまいそうな程の"圧"があった。
恐る恐る後ろを振り向く。
そこには僕と同じ、夜の帳のような色の髪をした女性が。
……僕が、今までずっと追いかけてきた人物。彼女が、そこ に
「……旭日、伯母さん」
「久しぶりだね日明。随分と大きくなったじゃないか」
【To be Continued.】