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今田 「よっし。」 |
-3日目-
今回、書けるほどの客並は言える程多くはなかったが。
少なくともまた印象的に残るお客さんがいた。
訪ねてきてたのは品性のある姿勢の整った眼鏡の女性。
社会人としては理想的な姿をしていた、真面目できっちりな印象。
本を探しに来たと思いきや、ツクナミの司書さんでまさかの修理依頼。
此処に来て初めての本修理の依頼に思わず声が上擦った記憶がある。
何やら訳ありなご依頼で、1ヶ月以内に修理を依頼してくる人物が来れば、
その本の修理費をこちらで負担する、という遠回しさに首は傾げた。
怪しさはないとは言い切れなかったが、初めてのご依頼もあったのと、
本人のどうしても、と言える誠実さを見込んでお受けする形になった。
結局どうなったかと言えば、その依頼の対象は結局訪れなかったが、
もしも今後その該当する人物が来た場合に備えて留意しておく。
機会があれば、支所さんのは働いてる中央図書を観に行ってみよう。
次に訪れてきたのは森那 絢莉珠。例のBARで会ったあの少年だ。
とある芸術展でも再度会ってはいたけれども、それは後述。
ウーロン茶にシロップって人は初めて見て、余程の甘党と思った。
何か買うというわけでもなく平等な人間関係として彼と話が弾んだ。
彼のお求めは本物の魔導書。理由は自身の異能による破滅的願望の確証。
芸術展のときからその傾向は知っていた、やるとすれば本気にだろう。
冗談めいてて覚悟と狂気が入り混じってる無垢さが彼の背景を物語る。
此方は客としてお求めの声に応える形に、一つの魔導書を提示した。
夢の世界より由来する作者不明の魔術の魔導書、それを読んでどうなるか。
たとえこの小さな力でも破滅を体現しよう物なら、手を貸す価値はあるだろう。
そんな最中、一人の別のお客さんが来た。絢莉珠の知り合いのようだが…。
ご来店した彼についてと、また個性的な可憐な少女二人の話は、また次回としよう。
まぁ、それ位なほど書店での出来事は其処までなかったが…代わりに外ではいろいろあった。
続くは訪れた場所での出来事
特に書くべきは藝術展のほうだろうか。
この街に来て初めて関わったイベントでもあった。
最初はボランティアと協賛のみに納めるつもりではあったが…
友人であるテレジアさんの勧めで、ひとつ作品を作り上げた。
作品が本の革表紙だけって正直どうだろうなとは思っていた。
然しあんまり注目されてない本のオーダーとしては丁度いいだろうと挑んでみた。
実際に展示されてる姿を見て、意外と目に留めて頂けてるのは感慨があるもので。
遊び心で表紙の裏を見れば、そこに自分の作品の意味合いが書かれたが、
なんとそれを見つけてくれた人物がただ一人、その中にいたときは面白かった。
その外にも様々な作品が並び連ねており、各々の作品の心情や目的に触れる機会は
2日間限りの展示会で、その場にいた者限りが知れる、その事実すら尊いものだと。
ボランティアはずっと異能の力で専ら物を運んでいた。大物から貴重品。
こういう時選んできた重力操作はなんにでも使えて使い勝手がいいなぁ。
そういえば協賛とボランティアの申請の際の運営事務所にイベントの責任者。
彼は印象的で、一生懸命なところが自信がない印象を与えていた。
けれどその目はとても真っ直ぐで、決めるのはまだだが野心的なものがあって。
飾られていないが、まだ飾られていない彼の作品。
そこにいつかはめ込まれる物がどんなものか、気になってしょうがなかった。
ウォールペイントの公開イベントも目を見張るものだった。
その出来上がる過程も凄まじいものだったが、何より言うべきはその世界観。
現代的な街と人並みの風景の中、中心に混在する巨大な蜘蛛の姿。
その印象は、どうやら見る人に寄って印象は様々だったようだ。
蜘蛛は侵略者として境界の向こうから覗いている、だとか
人々と世界はその蜘蛛に気づくことはなく、それでも其処にいる寂しさを表しているか。
こういうものをその場で作り上げ、人々に関心を与える事にプロ性を感じる。
特に盛り上がったのはコンサートホールでの出来事。
チケットに自分の宣伝が張られてる上にまさかの特別協賛には驚いてたが。
それはそれ、何よりも四人少数の弦楽集団『バイコーン・カルテット』。
彼らによるアリスをモチーフにした演奏そのものが作品という発想は見事で。
御来客すべての人達をアリスと擬えてその場を魅了する四重奏は心躍る力があった。
そして人を引き寄せる歌という、表現の力だったろうか。
監視員として其処にいた自分が彼らに魅了されていた時、
それでも、あの時の印象はその魅了に勝るからこそ見逃さなかったのか。
あの星降る海に会った少女を見つけて、囁くように一言を交わした。
アリスそのものが夢の物語の中で、泡沫の夢のあの出来事を
繋いだとするならば、そんなにも浪漫的な事柄があるのかと。
彼女の名前、雪降る夜道――――小説の題名のような、綺麗な名前をしていた。
少しの話を交えて別れた後、仕事に戻ろうとした矢先。
森那の絢莉珠……本物ともいえるアリスもコンサートを見ていたようで。
彼は其処で己の信念と思想、それは何もかもを巻き込み血まみれようとも
恵まれたる者達への渇望せしめた愛情証明の求道と願望を知る。
それが彼の本願なるなら、見守ろう。この世界での結末を。
あとDJが面白かった、1日目の夜の会話とまさかのラジオで
自分の作品取り上げてくれてたのは盛り上がったよ。
以上が、芸術展での出来事だったろうか。
続いてこれは、店を立ち上げて少し後の話。
ある人から話を聞いたコヌマ区の湖での釣りができるスポットを聞き、
んじゃあ釣りに行こうと準備して行ってみた。
行ってみたのはいいんだが、あの区にはなんと駅がなかった。
そして多分そんな遠くないだろうと徒歩でその湖まで踏破してみた。
結果はついたことには地面に倒れ伏すほど体力が切れて死ぬか思った。
そんな矢先で前前に聞いてた湖の畔にあった家を見つけて
このままでは洒落にならんこともあり人がいないかと戸を叩いた。
そこで出会ったのが湖にて釣竿職人として住んでいる昏さんという人物。
彼の血相は中々白く、あまり日に浴びてない姿をしていると思うほどに
白い体や髪の色と思いながらも、こちらの様子を見かねて家に上げてもらった。
人は見かけによらないとはよく言った程に優しい心の持ち主で
来たばかりの自分に蜂蜜入りの柚子茶を馳走になった、すごく美味しかった。
内観の見渡す限りの風情のある様子と、釣竿職人である彼の仕事の様子を
頼み申して、その洗練された漆光沢の鈍く輝く竿を拝見させてもらった。
曰く元々蒔絵職人であったが、とある理由で転向して釣竿の職人へ、
しかしその蒔絵師としての経験は竿でも活かされており、漆の巡った
金箔の遣いは細部に至るほど才で擬えられた出来に職人の業を感じた。
そんな彼の話をしたとき、自分のことを聞かれ動揺したことを覚えている。
自分から話を聞きたいと願っておきながら、自分は自身の本修理の業を
どのように培ったものかも教える気がなかった自分を恥じた。
この話がなければ、ミェル・バルバンに技術を授けられた、
彼の苛立ちや毒気、その事実すら一生思い出す機会などなかったかもしれない。
そんな話を懐かしんだ後に興じた釣り、小舟転覆するのではとビビっていた。
然し意外と少しすれば安全とわかって意気揚々と釣りを続けた。
魚は基本食える、食えないで覚えてればいいよなぁ。
ともあれ最初に釣り上げたのはフッコ、スズキだったっけな。
次にワカサギ、すごくちっさいが食える、量がもっと欲しかった。
何匹か釣ろうと思ったがそれは中断した、理由は次に釣った奴のせいだ。
カレイ、あの平べったい顔が面白い魚、なんだが。
なんか異常にでかかった、どのくらいかと言えば全長二倍程、食べ応え2倍だ。
昏さんもびっくりのでかさでそいつはバケツに入らなかった為、重力で水の中に保管してる。
折角なのもあり仲良く記念撮影を講じた、ちょっとシュールながらいい写真だった。
カレイはどうするかと話し、切り身を調理して仲良い人におすそ分けに行くか、
それとも中のいい人たちを読んで御馳走するか、現在その辺りを考え中だ。
カレイは現在中庭で水の塊の中で空中浮遊しながら浮いている。
またとある日、近所に料理教室があるのを知って挨拶がてら
暇な時が多かった為趣向により参加しようとその場所へ向かった。
その教室の建物に併設された1階のタバコ屋にちょっと寄ってタバコを一つ買っていく。
私はタバコはあまり吸わないが、昔すってたやつが家によく来ていて。
その人間は既にもういない。癖なのか、一箱家に置いておきたくなった。
小さな女の子にそんないらない小言を喋った後、教室へ。
その先生は如何にも先生と言える若々しくて誠実な印象を受けた。
どうやら料理教室も趣味による兼業の様で、本職は為替。
それを聞いたら確かに、如何にもな雰囲気がわかる程勝ちって奴だな。
懐も深く気の良い感じで、またどこかの機会で話してみたいが、
彼の話を聞いていて何よりも気になったのはお手伝いさんの学生さんの話、
その女の子は料理教室の際に実際会って身に感じたが、凄い。
何がすごいのかと言えば、肉に関しては間違いなく料理の切れや知識が凄まじかった。
性格も肉食的にガツガツとはっきりものをいうタイプで気の強さを感じた。
才能を心置きなく感じた、今回で教えてもらったハンバーグは今でも挑戦中。
次に訪れたのは友人の帰りに通った和食料理店。
風情のある感じで店の雰囲気も良かったのが、中でも目に付いたのは
店の人のあの顔の傷だ。顎から口の上まですっぱり傷口があった。かっけえ。
然し今になって思うんだがあれストレートに聞くって失礼すぎではないか。
猛省するべきところだろう、器の広い人で本当に良かった。
肝心の和食料理だがここ最近和食料理自体触れてなかったんで
思わず頼んだ、
鰤の塩焼き、肉じゃが、オクラの胡麻和え、揚げ豆腐、煮卵、だし巻き卵。
思わず唸る程のじんわりくる触感と特有の和の味がしみ込んで凄くよかった。
また来るとき友人でもお連れしたくなってしまう程のお店だった。
彼が偶然こちらに問うたあれで、まさかの古民家の彼の知り合いだったのも驚きだったが。
その先生と同じ問いではあったが、本質がまるで異なっていた。
あの奥の扉の向こうも。
また別の日、少し前から古民家の先生と高校生に見えない高校生に
勧められていたツクナミの人気のイタリアンレストラン。
最初スポーツマンジムみたいな印象の名前だと思っていたのが
一撃で払拭されるされる気分の如何にもな外観と内観だった。
特にない感が印象的な女の子らしい動物の装飾や置物が目に映った。
その店の女の子を見たとき、あぁ、と思ったがそして然してそれまでと。
兎も角ふんわりパタパタの擬音の似合う子だった、ファンシーさがあり
しかし言葉回しに何処か理知的な角が見え隠れする、不思議な印象。
出された料理は彩りと見た目の楽しさ、食べさせる相手を考えてるような。
気分が落ち着くような、特に頼んだオムライスは、思わぬものを思い出した。
自分の嘗ての大事な人が作ってくれたオムライス。
その人とこの少女のオムライスは、決してイコールなものではない。
ただ、思いだせてくれた感謝を、近いうちにまた来ようとは。
しかしまさか後日、あのオーディションで彼女をまた見ることになるとは、
その時私は思ってもいなかったのだった。
…思ったよりも長くなったが、今回はこれまでにしよう。
桜並木道と少年のレストラン、ヒーローとヴィランまでは書ききれなかったが、
また次回に、そして新たなにまたあった出来事を次回に、書き記していこう。