
~数年後~
「信じられない……あの狂暴な怪物共を一瞬で殺しちまった」
「それだけじゃない。あいつらから奪った生命力で仲間の傷も治してる」
「あの子さえいれば一団は安泰だ。もう死の恐怖に怯えなくて済む」
「彼女こそ新しい指導者にふさわしい!」
あの日から、私の一団での立場は大きく変わった
もう一人の『
私』はただの手のひら返しだと憤っていたが、それでもいい
この新たな力が皆の助けになるなら、私が彼らを導こう
~数年後~
「街を作るって……そんなことできるのか?」
「分からない。だが確かに当てのない旅を続けるのも限界がある。畑や家畜ができれば食糧に困ることも無くなる」
「これから生まれてくる子供達も、安心して生きられるわ」
「俺は賛成だ。あの人の選択はいつも正しかったしな」
「よし、創ろう!俺たちの街を!」
ありがとう……
きっと皆が安心して、幸福でいられる場所を創ってみせる
~数年後~
「駄目だ、こんな枯れた土地じゃ作物なんか育たない……」
「だからあの人が異能で土地をよみがえらせようとしてくれてるんじゃないか。無駄口叩くな」
「そりゃそうだが……しかし毎日毎日あんだけ異能を使って、よくやるよ」
「ああ、大変だろうに。全く頭が上がらないよ、あの人には」
休んでなどいられない
今この瞬間にも人々は飢え、苦しみ、命を落としていく
たとえ私の命が削れようとも、この歩みは止めない
~数十年後~
「女子供は先に逃がせ!男は武器を取れ!警備兵だけじゃ手が足らない!」
「盗賊共……崩壊前の兵器を持ち出して襲撃してくるとは」
「すげぇ数だ……街の全方位囲まれてる。ここまでなのか……」
「おい、朗報だ!東側の敵陣が壊滅した。一旦そちらへ逃げるぞ」
「何?いったい誰が…………あの方か?」
「信じられない……あれだけの数をたった一人で」
「彼女こそ救世主だ……行くぞ皆!我らが救世主の元に!」
私の民を傷つけに者には、誰であろうと容赦はしない
この街は、人々は、私が護ってみせる
~数十年後~
「ああ、ここはまさに楽園だ。当てのない荒野を旅してたのが遥か昔の事のようだ」
「まだまだ問題は多いけど、救世主様がいればきっと大丈夫さ」
「だが、あの人ももうかなりの高齢では?最近では病に臥せっていられるとの噂も……」
「確かに、以前はよく城下へ顔を見せに来てくれたが、近ごろはあまり……」
「いや、あの方ならば大丈夫だ。これまで幾度となく奇跡を起こしてくださった」
「これまでも、これからも……」
街から、人々の喧騒が聞こえてくる
まだ私にはすべきことあるというのにもう指一本動かせない
駄目だ……私が、私が彼らを護らなければ
彼らを……私が……
~数年後~
「これがあなたの新しい肉体です」
「我らの国の技術と異能の粋を集めて作り上げた偶像」
「この体に寿命は無い。あなたは不死の存在となったのです」
「もはやあなたは救世主を超え、神となった」
「神よ、我々をお導きください」
「未来永劫に渡って」
……これでいい
人間の肉体など、もはやいらぬ
我が民に、永遠の安寧を
~数百年後~
「たどり着いた……ここが楽園か」
「長かった旅も終わりで。これで死んでいった仲間も報われる」
「……?あれはなんだ、兵士か?」
「審問……?」
外から来たものを調べ上げろ
この都市に、穢れを入りこませてはならん
~数十年後~
「やめてくれ!家族をどうする気だ!?」
「汝は禁を犯した。故に処罰する」
「法を破ったのは私だ!私だけ裁けばいい!」
「神はそれをお許しにならない。大人しくするのだな」
「何が神だ……悪魔め!」
罪人の言葉に耳を貸すな
一度罪を犯した者の魂は穢れ、淀んでいる
彼奴の存在そのものが害悪なのだ
~数十年後~
「いつからこうなってしまったんだ」
人は堕落する
~数十年後~
「この都市は神の加護により護られている」
我が全てを見定めねばならない
~数年後~
「今度は隣の家の奴が連れていかれた……」
罪人を野放しにするな
~数十年後~
「神よ、お救いくだされ……」
正しくあれ。正しくないものは生きるに値せぬ
~数十年後~
「ここは楽園なんかじゃない」
何も考えるな、ただ我を崇めよ
~数十年後~
「聞いたか?兵士に連れていかれたやつらは地下で……」
「シッ!静かにしろ!」
それこそが幸福、それこそが命
~数年後~
「外へ逃げよう」「逃げて、どこへ?」
さすれば悲しみも、恐怖も、痛みも無い
~数ヶ月後~
「まるで家畜だ。ここに自由は無い」
何故、分からぬ?
~数十日後~
「私じゃない!犯人はあいつだ!」
「おい、ふざけるな!嘘をつくんじゃ……ひっ、や、やめろ!連れて行かないでくれ!」
穢れ共が
~数日後~
「
助けて!」 「
助けて」 「
死にたくない」 「
熱い!」 「
苦しい!」
「
お母さん!」

「
燃える」 「
いやだ!」
「
殺してくれ!」 「
まだ子供が」 「許してくれ 」 「
生きたい」
「悪魔め!怪物め!お前こそ、本当の悪だ!」
私は
何をしたかったんだっけ