時計の針がひとつまわる度、一続きの夢の刻が終わりを告げる。

定刻にフラッシュバックする偽りの街の記憶。
息苦しい街並み、アナウンス、――そしてノイズ。
雑音が砂嵐の様にひしめき合う。

居場所を守ろうとする者がいる、それを奪う者がいる。
そしてそれを阻む者に、それすら楽しむ者もいるだろう。
イバラシティとアンジニティ両陣営の陣取り合戦。
様々な思いと思惑が交錯する中で、ぼんやりと空を見ていた。

気分の悪くなるような、赤い色。
世界は人で溢れているというのに。
ここには、まるで何もない。



……いっそ全部溶けちまったら楽だったろうに。



黒猫が静かな声で鳴く。
彼女の肩の上でピンク色のウサギが首を傾いだ。


もったいないですよ、と笑うように。



ウサギがはねる。
ウサギ。
ウサギ。
増えてゆくウサギ。
異能でできた偽物のウサギ。


俺は首を傾いで笑い返すことしかできない。




どこからどこまでが俺なのか
今の俺にはわからない

『 派手なスーツ、色眼鏡、偽物の名前 』
他者の認識を 俺 と定義するならば
現在の俺を俺たらしめるもの。



堕ちて程なく気付いたことだ。
『狭間の影響が増すほどにウサギは増える。』

堕ちて 気付いていた ことだ。


『狭間の俺には顔がない。』




――――なぁ、朱鷺羽。　　　

　　　　　俺は今、どんな顔をしている？

▲	きよちゃん 「…………」 結構いける。そう聞き取ったので、呑気にも喜んでいる。 不毛の大地とて、自分が役立てれば嬉しいのだ。 「そう、廃屋。 　大丈夫ですよ。イバラシティではちゃんと民家だったらしい所ですから、 　食べられないものではないはずです。 　調味料って傷みにくいですし」 ありがたくも深く突っ込まれなかったので、 やんわりとそのようなフォローを入れるにとどめる。 大丈夫大丈夫いけるいける。

	捻くれた視線を感じたものの、こちらはフォローすら挟まなかった。 胡散臭いのはお互い様だ。所詮、掃き溜めに寄せられたものの集団だと了解している。 「深谷のあの格好は、わたしのセンスじゃないんですけど、 　お言葉、ありがたく受け取っておきます」 姿に関する言及には、はぐらかされた、と感じた。 どのような罪で落ちたかも、人種……正体も知れないままだ。 無理に聞き出すつもりはなかったが、そのそつの無さは油断できない。 現れるウサギを目で追う。 ぬいぐるみというより、落書きがそのまま現実に現れたような造形は、 『バーチャル』という言葉にふさわしいように思った。 ……仮想現実。無いものを有るように見せる、現代の魔法。 海鮮料理屋で初めて会ったときに受けた印象とは、重なるようでいて大きく違う。 芸術やデザインで世界を彩るよりも、もっと。 現実を塗り潰し、組み替えていくような。

	必要のない空想をやめて「そうですね」と微笑む。 「食べられるのは遠慮したいところですね。 　……ウサギは草食ですし。 　代わりに、人肉よりはいいものをご馳走できるよう頑張ります」 きよちゃん 「このウサギ、可愛いですね」 ちょいちょいと指で招く。おいでおいで。 「そう……ウサギさん共々、仲良くしましょう。 　さしあたっては、目の前の障害ですね。 　また掃き溜めに返されないよう、頑張りましょうか」

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