
子供の頃からクリスマスがあまり好きではなかったように思う。
だって、クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントをひとまとめにされるんだから。
かのんには誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントがあるのに、
あたしにはプレゼントがひとつしかないなんてずるい!って何度も思ったっけ。
まぁ、あたしはゲーム機やゲームソフトを貰っていたのに対して、かのんは
ぬいぐるみやお絵描きセットとか、金銭面で考えればプラマイゼロって感じではあったけど。
さすがに小さい頃にはそんなこと気づかなかったし、気づいてもなんともいえない不満感は残った。
世間的にクリスマスがちょっと特別なイベント日でも、
あたしにとっては自分の誕生日を奪った忌まわしい日にしか思えなくて。
そんな日に生まれた自分のことも、…世界に祝福されてないみたいでなんとなく嫌いだった。
「お誕生日おめでとう、かなで君」
12月25日。
いつも通りのクリスマスで、いつも通りの誕生日が来ると思っていたその日。
家に古浄さんが来て、あたしの誕生日を祝ってくれた。
………
「……えへ」
プレゼントに貰った綺麗なペンダントトップを掲げて眺める。
古浄さんってけっこう可愛いのが好きなのかな。
それともあたしがこういうの好きだと思って選んでくれたのかな。
どっちにしろ、古浄さんが誕生日にくれたってだけで特別に思える。
『生まれてきてくれて……そして、僕の友達になってくれて、ありがとう』
自然と思い返される言葉。いつもの芝居がかった台詞。
「……」
古浄さんの言葉はまるで漫画やアニメの登場人物みたいで、正直嘘くさいところがある。
本人は本気だって言うけど…どこまで信じていいのかわからない。
もし、本当に本気だったとしたら……?
嬉しいという気持ちがまったくないわけではない。でもそれ以上に困ってしまう。
……あたしは、そんな風に言ってもらえるような人じゃないから。
部屋にある姿見の前に立つ。
ペンダントを首にかけてみるが、やっぱり似合わないな…と思った。
せっかく古浄さんが選んでくれたのに、似合わないなんて失礼だけど。
このペンダントに対して、あたしの方が見劣りするのだ。
「……」
あたしは毎朝必ずこの姿見で、自分の姿を確認する。
身だしなみは大事だ。最低限のマナーだし、うちの学校には美人さんが多いから
あたしみたいなちんちくりんはせめて清潔にしているべきなのだ。
でもその度に、自分の不細工な顔とか、どう頑張ってもびょんびょん跳ねる髪とか、
全体的にぽっちゃりした体とか、気づいたら猫背になってる姿勢とか…
自分のコンプレックスと向き合わなきゃいけない。
毎朝自分の姿を見るたび、自分の姿が嫌いだな、と再確認する癖がいつの間にかついていた。
…ついでに、こんなに外見にコンプレックスがあるものだから、
性格だってねじ曲がっていってる気がする。
こんな自分のどこに自信を持てばいいのだろう。
褒められても、そんなことないって言われても、全然受け入れられない。
どんどん卑屈で、後ろ向きで、嫌な性格になる一方だ。
自分の性格が嫌いだな、とよく思うようになった。
…考え始めたら目も当てられないほど人として魅力がないな。
「……」
古浄さんの言葉を聞いた時、嬉しいって気持ちがあったかどうか…実のところわからない。
どっちかっていうと、なんでそんなこと言うの?ってちょっと怒りすら沸いていたような気がする。
なんだろう、古浄さんに対してじゃなくて、自分に対して、なのかな。
なんでこんなこと言わせてるんだろう?って。
古浄さんが優しい言葉をかけてくれるたび、あたしに踏み込んでくるたび、
その言葉が受け入れられなくなっていて、それがすごく悲しくて…
だからプレゼントをもらった時、あの言葉をかけられた時…泣いてしまったんだと思う。
「はぁ…………」
思わず深いため息が出た。
せっかく誕生日をお祝いしてもらえたのに、なんてこと考えているんだろう。
古浄さんはただ、あたしの誕生日をお祝いしたかっただけのはずだ。
なのにあたしは素直に喜ぶどころか、それを受け入れきれないでいる。
本当に自分のそういうところが嫌いだ。嫌い。
考えれば考えるほど嫌いになる。鏡に映る自分の姿に怒りすら沸く。
なんであたしは、こんな奴なんだ。
なんであたしが古浄さんの友達なんだ。
あたしなんて全然いいところないじゃないか。
あたしなんて古浄さんの友達としてふさわしくない。
あたしなんて
『生まれてこなければ良かった?』

「―――――!!!」
鏡の中の自分が、喋った。
反転したあたしの瞳が、あたしを見つめている。
淡い水色を放って。
「………は、…っ」
深呼吸。
落ち着け。…大丈夫。
釘付けになった鏡の中の自分の瞳からゆっくりと目を逸らし、すぐ傍の机へ手を伸ばす。
その一番上の引き出しを探り、錠剤のシートを手にした。
2錠。シートから取り出し口の中へ放り込む。
乾いた喉でなんとか飲み込んで、ゆっくりと呼吸を繰り返した。
「……すぅ、……はぁ…」
緊張で固まる体をゆっくりと動かして、地べたに座り込む。
「…………はぁ…」
しばらくすれば、バクバクと激しく鳴っていた鼓動が落ち着いてくる。
…久しぶりに飲んだからか、効きがいい。
「はぁ…は………ふ、ぐ…ぅ……っ」
落ち着いてくると同時に、なんだか情けなくて涙が出てきた。
…あたしの異能は精神干渉。
テレパシーと呼ばれるその力は、人に自分の気持ちを伝える…なんて都合のいいものじゃない。
あたしの感情、感覚、思考…それらを相手の精神的な部分に干渉させる力。
下手すれば、人の心を捻じ曲げたり、思い込みを植え付けたり…洗脳だってできる力。
「う…うぅ……ひ…っ…ぐす……」
…あぁ、この異能だって、嫌いだ。
こうしてうっかり、鏡の中の自分に使えば、
跳ね返った自分の強い感情が膨れ上がって幻覚や幻聴まで見せ始める。
嫌いだ。嫌い。嫌い。何もかも。
あたしは…あたしの全部が、大嫌い。