
ソレは既に使い古された言葉かもしれない。
あるいは自分が使うべき言葉ではないかもしれない。
ただ、その時の俺はソレを信じたし、またソレを言った人も実行していたと思ってた。
『なぁ、京介。
くせぇ言葉だけどさ、一つだけ言わせろ。
自分の中に一本の柱を立てろ。
そいつは曲げることも出来ない、折ることも出来ない、絶対に譲れないやつだ。
何でもいいんだ、それがどんだけ相手に迷惑をかけるものでもいい。
仮に、世界を戦争に巻き込むようなものでも、誰かを殺すようなものでも、俺はいいと思う。
ああ、すっげぇ大事だ。
ソレさえあって見失わなければ、お前はお前として生きていける。
それでいて、土壇場の時に体を動かせる。
そのでっけぇ柱のために動ければ。
後悔はうまれない。
失敗はするかもしれないし、最悪死ぬかもしれねぇ。
けど、後悔はうまれない。
後悔するのって、辛いだろ?
じゃあ、柱を作れ。
自分の中に、絶対に譲れないものを打ち立てろ。
そんでもって、もっともっとカッコよくなれ京介』
なのに――。
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京介 「なんでだよ!アンタ、やりたいことがあるって言ってたじゃねぇか!」 |
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京介 「異能に関しての会社をやりてぇって言ってたアンタは、」 |
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京介 「あの人と結婚するって言ってたアンタは……すげぇ幸せそうな顔をしていた!」 |
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京介 「なのに!!」 |
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京介 「あのクソ親父の言いなりになって、結局会社を継いで!」 |
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京介 「俺に言ってた言葉はなんだったんだ!」 |
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京介 「アンタはそれで、後悔してねぇっていうのかよ!!」 |
叫んでもアイツはこっちを見ていた。
ただ、何の感情もない目だった。
俺が見てた理想が砕けて、ただ気持ち悪い現実だけを見せられて。
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京介 「何か言ってくれよ、兄貴!!」 |
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京介 「――んぉ」 |
いつの間にかここに来ていた。
向こうの世界とこちらの世界を行き来する際の、一瞬の暗転がなんとなく気持ち悪い。
いや、それ以上に。
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京介 「……なんだろ、やべぇな。俺が俺じゃないみてぇだ」 |
向こうの自分と、今ここにいる自分。
本当に同一人物なのだろうか。
向こうの記憶はあるのに、ここの記憶は持ち出せず。
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京介 「コピーされた人間ってこんな感じなのか、なんてな」 |
かっこいいことを言っても仕方ない。
必死にあがいて、なんとか生き残るだけ。
情報確認のために『Cross+Rose』にログインし、他の人たちの状況を確認。
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京介 「――あ、先輩から。」 |
チャット欄を見れば、見知った人からのメッセージが届いていた。
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京介 「――」 |
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京介 「――」 |
ちょっと弱った姿の彼女はとても面白い。
なんて本人の前ではとても言えないが。
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京介 「めぇこちゃんからもきてたし。みんな無事そうでよかった。」 |
さて、なんて返したものか。
――ああ、そうだ。
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京介 「俺はあんたのことを許してないけど。あんたの言葉、借りるぞ。」 |
今日もハザマでの戦いが始まった。