「わっ、変な形―。ねえねえ、これなーに?」
『これはね、カーゴバイクっていうんだよ。大きな籠にお荷物を、たくさんたくさん入れて走れる自転車なんだよ』
「おっきな―……」
『手で運ぶのが大変な麦袋も、いっぱいカンタンに運べるね」
「すごーいー。ね、実はボクもこの前籠に乗れたりする?」
『乗れるねー。乗ってみたいかい?』
「うん、のる!!!」
《カーゴバイク、とは》
大きな荷物などを運ぶことが出来る運搬用自転車である。
区分としては“普通自転車”となる。
法第六十三条の三の内閣府令で定める普通自転車の基準は、次のとおりである。
一 車体の大きさは、次に掲げる長さ及び幅を超えないこと。
イ 長さ 百九十センチメートル
ロ 幅 六十センチメートル
二 車体の構造は、次に掲げるものであること。
イ 側車を付していないこと。
ロ 一の運転者席以外の乗車装置(幼児用座席を除く。)を備えていないこと。
ハ 制動装置が走行中容易に操作できる位置にあること。
ニ 歩行者に危害を及ぼすおそれがある鋭利な突出部がないこと。
I県道路交通法施行細則第11条、第2項、第1。
積載装置を備える自転車にあっては30キログラムを、リヤカーを牽引する場合におけるその牽引されるリヤカーにあっては120キログラムをそれぞれ超えないこと。
「ねえ、キャンプ行こ?」
『イイネ。ナニでいく?』
「んー。車~? バイク~? どうしよ~?」
『バイクにしようぜ? 風気持ちイイし、荷物っつっても車出すほどじゃないだろ』
「だねー、楽しみーっ♪」
――。
「父さん、野ざらしで放ってあるアレは?」
『あれ?』
「カーゴ。ギアも電動機もないふっるいアレで大荷物なんてもう運ばないだろ?」
『運ぶなら、車かバイクか原付か、よくてアシスト自転車だろうな』
「だろ? あんなサビだらけ塗装はげの時代遅れなんていらなくね?」
『サビ取りやメンテすればアレもまだ使えんこともないが……お前は使わんのか?』
「勘弁してよ。アレノロいし疲れるし、くたびれロバみたいで野暮ったいし」
「そもそも、今のご時世であんなん乗ったら法律違反じゃないか」
「――私、エディアン・カグから、アンジニティチームの方々へ」
「能力『ワールドスワップ』発動により、世界への侵略が開始されました」
「ランダム選択により侵略対象は《響奏の世界》イバラシティ」
「アンジニティの方々は暫くの間イバラシティの『仮の住人』となり、一時的に記憶・姿が『イバラシティに適応したもの』に置換されます。ひとまず与えられた記憶・姿に従ってイバラシティの住人として楽しんでください」
「侵略は長期に渡り少しずつ行われます」
「侵略行為の場となる『ハザマ』では記憶・姿が元に戻りますので、本来の貴方がたの力も発揮できるかと思います」
「何が何やら……かと思います」
「あまり長くは話せないもので、詳細はまた『ハザマ』にて説明させていただきますね」
1度……2度……3、度、……?
数ノ数エ方、キオクの意味、想イ・考エ。
そういったものは、ワタシにはアマリ分カラナイ。
ただ、幾度と重なり繰り返されれば“ああそうなんだ”位ハ分かってくる。
白銀ノ少女の声と映像、黒ノ青年の声と映像。
ワタシがワタシであるときの、キオクのカケラと。
ワタシが私――白銀ノ少女の言う《仮の住人》、出籠さや――であるときの、キオクのカケラと。
合わせれば。
ワタシがワタシであったとしても、私のキオクが差し込めば。
ああ、そうなんだ、くらいは分かってくる。
ここは、ハザマ。
ワタシは、否定されたモノ。
鉄の馬――バイクにも、鉄の猪――車にも、役割を取って代わられて
法にすら、ワタシの役割をその意義を、否定された異形のモノ。
キオクのカケラの比喩を使えば、くたびれ老いた、兎馬。
もはやそこには、いてはいけない、存在してはいけないモノ。
されど、在るモノ。
いわゆる、咎人。
ワタシはまだ、在りはする。
されど、ワタシは在ってはならぬもの。
仕事も、役割も、意義も否定されたワタシは、もはや朽ちるのみが残された唯一の道なのか。
否
ワタシが在れる場所は、存在する。
ワタシは燃料を必要としない、もし折れ壊れても治すことが容易いモノ。
例えば私が住まう場所であるならば、ワタシが在れる場所である。
自活を旨とし、おのが技術で生き住まう場所であるならば、ワタシが在れる場所である。
許可を受け、籠に荷台に乗せるであれば、ワタシの役は全うできる。
道に交通に支障がないと認められた場所であるならば、なお、ワタシが在れる場所である。
もし
川や湖に面するような、海岸線に面するような
平坦な、とても平坦な土地が続くような場所であったとするならば
変速機も原動機もむしろ枷となりかねない場所であるならば、ワタシの仕事も意義もあるだろう。
行こう。
ワタシはワタシが在れる場所へ。
否定された異形のモノとして朽ち果てるのではなく
ワタシの役割がその意義が、全うできるその場所まで。
ワタシの肩には小さな鳥が。
ワタシの胸には静かな猫が。
ワタシの背には大きな犬が。
ワタシに乗っては身を休め、先導をしては移動する。
ワタシは、ワタシの役を果たしながら。
ワタシは、ワタシの仕事が役が、その意義があるであろう場所へと向かおう。
その道行に立ちふさがる障害があらわれたとするならば
――重なり叫び、轢きながら。
道路交通法、第57条第1項。
車両(軽車両を除く。以下この項及び第五十八条の二から第五十八条の五までにおいて同じ。)の運転者は、当該車両について政令で定める乗車人員又は積載物の重量、大きさ若しくは積載の方法(以下この条において「積載重量等」という。)の制限を超えて乗車をさせ、又は積載をして車両を運転してはならない。ただし、第五十五条第一項ただし書の規定により、又は前条第二項の規定による許可を受けて貨物自動車の荷台に乗車させる場合にあつては、当該制限を超える乗車をさせて運転することができる。
同第3項
貨物が分割できないものであるため第一項の政令で定める積載重量等の制限又は前項の規定に基づき公安委員会が定める積載重量等を超えることとなる場合において、出発地警察署長が当該車両の構造又は道路若しくは交通の状況により支障がないと認めて積載重量等を限つて許可をしたときは、車両の運転者は、第一項又は前項の規定にかかわらず、当該許可に係る積載重量等の範囲内で当該制限を超える積載をして車両を運転することができる。