
朱に染まった空、何処からか聞こえる異形の呻き声
始まった侵略戦争、永遠にも思える36時間。
風眠は1人、ハザマを歩いていた
身を護るために拾った鉄パイプを引きずって、一人ぼっちで、進んでいく。
風眠に、超常的な強さは無い。
武術も収めて居なければ、スポーツ万能でも無く、取り立てて頭がイイ訳でも、異能が攻撃に向いているワケでも、武器が扱えるわけでも、無い。
有るとすれば、何かを、誰かを傷付ける事への罪悪感、他人への猜疑心、自分への嫌悪感……ほんの少し、後悔する時間を伸ばす異能。
目の前の事から目を逸らし、臭い物に蓋をして、後から悔やむ為だけに、先へと伸ばし続ける、何の役にも立たない異能。
「……どうすりゃ、良いんだ」
侵略戦争、なんて在り得ないと思っていたのに
気付けば自身も渦中の一人
何も出来ない男を巻き添えにして、どうしようというのだろう。
「俺は、どうすれば……良い」
問いに答えは無い、在ろうはずもない。
此処には自分しか居ないのだし、仮にいたとしても誰も応えないだろう。
『人間は誰しも自分のことで手一杯で、誰かにかまけている余裕なんてほとんどない』
誰かの言葉が、脳裏を過る。
今回で身をもって知った、誰も彼もが精一杯で、手一杯で、必死に目的を成そうとしている
それは自分達《イバラシティ》だけじゃなく、アイツ等《アンジニティ》だって同じで。
「…………」
風眠は、自分の事が分からない。
好きな事も、したい事も、得意な事も、出来る事も、18年生きてきて、何も分からない。
自己保身の塊のような異能を持って生まれたのに関わらず、自己理解の一切を持たなかった少年は
今一度、自分に問うた。
「……俺は、どうしたい」
分からない
「俺は、何をしたい」
分からない
「俺……は……」
『………ネムリの「好き」はさ、どこに落ちてると思う?』
脳裏を過る、好きなモノなんて無いと言った自分に、少女が向けた言葉
護りたいモノだとか、大切なモノだとか
そんなものを一笑に付した時期があった。
自分には無かったから、中二病を気取って、ドライでクールな人間ぶって否定していれば楽だったから。
「俺は」
好きなコトも、得意なコトも、まだ何も分からないけれど
「俺は……」
自分の事は、全然これっぽっちも、好きじゃないけれど
「
……友達を、護りたい」
たった一人で、どうにかできるなんて思わないけれど
それでも、どうか、ほんの数人、もしくはたった一人だったとしても
自分の
"好きなモノ"が、救えるなら
「……
後戻りは、無しだ」
鉄パイプを掴み、確かな足取りで歩み出す。
たった一人の防衛戦が始まった───