
「お前みたいなガキが、騎士になるなど笑えぬ冗談を口にするな!」
「そんなきたねえ泥だらけのウロコ野郎が、城に入れるわけねえだろ!」
半日以上馬車に潜み続け、王都へたどり着いたものの、当然そう簡単に騎士になれるはずはなく
守衛の者に罵声を浴びせられ、取り合ってくれることはなかった
ここまできてこのまま帰るなどできない、しかしこんな幼い身で、拠り所の無い者が何ができようか
ずっと抑え続けていた不安が、情けなく俯いて歩く我が身に一気にのしかかってきた
気が付けば、私は路地裏の道へ迷い込んでいた
もはや帰る道さえわからず、腰を落とし、声もなく涙を流す
……永遠のように思えた時間が終わるのは、ガラの悪い二人組の声だった
「おい、ちょうどいい子供がいるじゃねえかよ」
「待てよ、物乞いにしちゃあいい服着てるなこいつ」
「ああん?じゃあ親とはぐれた奴ってことか」
「まあそのほうがいいカモじゃねえか、全部身ぐるみ剥いじまおうぜ。ちょっとした銭になる」
「確かに、カネにするのにめんどくせえ奴らより、そのほうが手っ取り早い」
幼き私は、その恐怖から何も抵抗することができなかった
そして、王都でさえ酷い治安であることに……あまりにも深い絶望を味わった
だが、そこに別の男が現れた
「おいぃ~?てめェら、二人がかりでガキをぉ……、なにやってェんだあ?」
老けた容貌で、非常に怪しい千鳥足の……明らかに泥酔した男だ
「なんだオッサン!邪魔するんじゃねえ!」
「もっとちょうどいいじゃねえか!いい服してるみてえだし、てめえからも持って行ってやるよ!」
「こんな人もいねえところに迷い込んだ、てめえが悪いんだよ!」
暴漢二人は、私から手を放し、その酔っ払いのほうへ向かった
腰を抜かしてしまった私は、その様子を眺めるほかなかった
酔った男の動きは、あまりにも鮮やかであった
そのあたりに落ちていた棒を拾い上げた瞬間、その目の瞳は細くなり、瞼は締められ、先ほどの様子が嘘だったように鋭い目となった
暴漢の攻撃をすべて受け止め、受け流し、弾き飛ばし……
奴らが武器を落とし、ひるんだその瞬間に、強い一撃を横腹に
暴漢の一人は気絶し倒れ、もう一人は恐れて逃げて行った
「まったく、見る目がねえ奴らだ
弱っちい奴ならもっといくらでもいるってェのによぉ~」
その男の目の色は戻り、何事もなかったかのように千鳥足で歩いていく
……もう、ここしかない。決心は一瞬だった
「待ってください!お願いします!!
僕に……
僕に戦い方を教えてください!!」
「……ハッハッハ、てめェも見る目のねえガキだな」
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まず、一人で行動することは危険だろう
先の液状のモンスターは大したことがなかったとはいえ、すべてがあのような雑魚ではないはずだ
それに、イバラシティの者とも戦う必要がある。民間人……とも呼べぬ、恐るべき存在が多くいることは把握している
――もし、私がヒョーリと別の存在なら……アイツとも、戦うのか?
……いらぬ心配をする必要などない、ただ戦うのみだ
幸い、共に戦ってくれる者はいた
一人は、豪傑という言葉がよく似合う、炎を纏いし者
一人……一羽は、吉兆と不幸を運ぶ鳥、と呼ぶには小さく、しかして風の如き者
もう一人は……、見慣れぬ小さき砲のようなキカイを持つ、黒き姿の者
黒き姿の者からは、何か……不思議な感覚を持った
どこかで、彼を――?
小さく、風のような彼――"からす"の牽引にて私たちは進むことを始めた
私だけの目的であった『ワールドスワップの完遂』に、彼らの思いを我が背に乗せて――――