
寒い場所にいる。雪の白。白一色・・・。それが私の居場所。
白い髪、白い瞳。白は全て。私のすべて。
私の名前の石も白い。意思もまっしろ。何をすればわからず、一歩も踏み出さず、いや、踏み出せない。
されど、歩かなくてはいけない。二本の足がある。一歩踏み出す。真っ白な平野。空も雲に覆われて真っ白だ。雪の中に足が沈む。
歩かなきゃ。歩かなきゃ。思考が濁り始める。真っ白ではなくなっていく。
必死に足を動かし、行く場所すらわからぬまま進む。
やがて、向こうの空に青い・・・いや蒼い影が映りだす。
燃える家。蒼い炎が踊り狂い、供宴は辺りを踊り狂う。
逃げ惑う人々、崩れ落ちる家。燃える村。
その中心で踊り狂う人影が一つ。
それは、私によく似た狂気じみた笑みを浮かべた人物であった。
・・・
・・
・
目が覚める。見知った天井。外から届く喧騒。
私はベッドの上から身を起こし、眠く閉じそうになる瞼を擦るとカーテンを開けた。
外はあの世界と違い、日に満ちている。時計を見ると0500をさしていた。
はぁ・・・とため息をつくと、ベッドから起き上がりシャワーを浴びに行く。
(あの日の事はもう終わったんだ。しっかりしないと、わたし。)
熱いシャワーを身に浴び、そう何度もつぶやく。
下着を身に着け、修道女のようないつもの服を身に着け、箪笥の上に置いてある蒼い石のネックレスを取って首に巻こうとする・・・ところで手を止める。
『よくぞ、ここまで育ってくれたな、フェナ。お前の18の誕生日のプレゼントだ。我がクレマチス家に伝わる魔石の一つ。タンザナイト。不幸な体質を持つお前であれば使いこなせるであろう。…いや、違うな。使いこなしてくれなくては困る。その石を常に身につけておくのだ。その石の魔力がフェナ、お前の戦いを助け導いてくれるだろう。』
何が助け導いてくれるだ。おあいにく様。わたしは戦いなんて無用な生活を始めたんだ。戦闘技能を体にしみこませるほど鍛えてくれた祖父と伯父には感謝している。でも、私は戦いなんて自ら行う気なんてない。平和に平和に暮らす。そのための決意。そのための修道服だ。
「戦いなんて・・・くそくらえ・・・です。」
私はネックレスを身に着けると、朝食を作りにキッチンへ向かう。1LDKの小さい住処なれど、すぐ近くにやりたいことをやれる場所があるのはとても満足している。・・・と歩き出したところであった・・・。
「・・・・って、あ、いたっ・・・・!!」
と、小指をドアの淵にぶつける。痛みのあまりかがみこんだところに寄りかかった机は盛大に揺れて上に置いてあった小物が私に落ちてくる。
「はわ・・・・!!!はわわわわ!!!!」
「う・・・・うぅ・・・。私は不幸です・・・。」
うつ伏せのままそう喚き立ち上がろうとしたところ、ドアノブが思いっきり頭を突き上げる。
「ふえぇぇーーん!!!もーーーーやだーーーー!!!」
フェナカイトの一日は大体不幸で始まり、不幸で終わる。