
いばらの交換日記
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「はあ…まいりましたわね……」
日記の初めは本来なら別の方がやる予定だったのですが、今回は私からやることになりました。
私は世界花。お母さまたちの間ではすっかり「WFちゃん」と呼ばれます。
ラルクベルテ・ハンドレッド
サーディラン・グッドスピード
グランバスタ・ダブルシザース
レシチア・マリンシンガー
そして、フローリアお母さま。
人の姿をとった私の前にはこの5人と、マリアさんという私の友達になってくれると言ってくださった方が現れました。
「ラルクベルテさん、サーディランさん、グランバスタさん、レシチアさん……そして、フローリアお母さま、改めまして世界花です。
そして、フローリアお母さまが連れてきてくださったマリアさん、お母さまのわがままを聞いてくださってありがとうございます」
初めて私が放った言葉はこれでした。
お母さまはキョロキョロ見回しています。
「フローリアお母さま…?あ……そうでしたわね」
キョロキョロと誰かを探しているお母さまにこう告げます。
「今の名前は、ミリーなのですよね、お母さま」
キョロキョロしていたお母さまは豆鉄砲を食らったような顔をしていたのは微笑ましかったです。
「ん…えーと。ミリーさんの事をフローリアと呼んでいたのは……?」
この質問はラルクベルテさん。以下、ラクベルさんとお呼びした方がいいのでしょう。彼からのものでした。
「ええ、この私を種から育て、毎日笑顔で水を与えてくれて、野生の動物に踏まれないよう柵まで作ってくれて……
それが、フローリアお母さま。貴方たちが『ミリー・ブロッサム』と呼ぶ人の本当の名前です」
「そういえば、ミリーから柵を作るための針金を頼まれていたな」
「ミリーちゃんから『このお花にはどんな水があうのでしょう?』と相談も受けましたわね」
「はい、グラスタさん、レシチアさん、貴方たちの行動もすべて、見ていました」
そう答え終わった後に、一つの視線に気づきます。
「……サーディランさん、改めて、改めて申し訳ありません。私の、わがままを聞いてくださったことを」
サーディラン、当時はネイキッドブレイブのメンバーではなかったために苗字を持たない男性でしたが、彼は私の予言を遂行してくれました。
前の私を殺す、という形を持って。
そして彼は今、お母さまやラクベルさんたちのような仲間に囲まれて。
かつての冷たい目は、もはやなくなった…のかもしれません。
「はっ、気にしてねえよ。ただ、強いて言えばなあ…」
そういうと、サーディさんは私の額をはじきます。
「友達が欲しいって理由で俺たちの世界を巻き込むなっての、ったく」
その額の痛みは、なぜか心地よかった気がします。
「えっと…なんだか話についていけないのだけど……ミリーさん、世界花とお友達になってほしい、という頼みでしたわよね?」
連れてこられていたマリアさんがおずおずと話してきました。
「はい!でもまさか人の姿をとって、こうしてお話しすることになるとは思ってなくて、色々と申し訳ないです」
「いいのよ。ただ、世界花…さん?私を見て怖くないのですか?」
視覚的な面で見ると確かにおどろおどろしい風貌なのかもしれません。マリアさんは今の本来の姿では目玉のついた薔薇の花の荊に囲まれているのです。
しかし、それはあくまでも客観的な視点。
「いいえ、私は貴方の事を恐ろしいとは思えません。むしろお母さまの願いを聞いてくださり、本当に感謝しています。
よければその…私と……」
私は、恐る恐る口にする。サーディさんが言ったように、友達が欲しいだけで世界を巻き込んでしまうようなことになった者と友達になってくれる人なんて、いるんだろうか、なんて。
「構わないわよ。ミリーさんの頼みだし、それに」
その後のマリアさんの言葉で救われた気がしたのでした。
「あなたも、ミリーさんの娘さんなだけあって、私の見た目で私を判断しなかったのですから。いえ、正確には見た目で判断したうえで素敵だと言ってくださった。
それだけで十分でしょう?」
私は感極まってフローリアお母さま…いえ、ミリーお母さまを抱きしめる。
「お母さま…ありがとう…ありがとうございます……」
フローリアお母さまが頭をなでる心地よさに、そのまま眠ってしまったのでした。
そして、別の並行世界のイバラシティのお話を聞きました。
私は改めてあの世界に行きたい、もっと友達が欲しい、そう思って。
「んー……ラクベル、サーディ、ミリー、グラスタ、レシチア。ネイキッドブレイブ第二部隊のお前たちに新しい任務……いや、これ任務じゃねえな。
有給休暇をやるから、お前らとその世界花……世界花だとなんかかたっくるしいな、いい呼び名ねえかな?
6人で次のイバラシティを楽しんできてくれな。案外楽しそうだったしなお前ら。世界の危機だっつーのに」
そう言ったのはフローリアお母さま達の直属の上司であり、ネイキッドブレイブのボス、ガイアレッグ・スペランツァというおじさまでした。
「そして、マリア、だっけか。特にあんたはミリーととても仲良くさせてもらっていると聞いた。これからもミリーの事を、よろしく頼む」
そうして、私たちは7人でイバラシティの旅行をアンジニティのシステムを利用して向かったわけですが……。
私が日記を書いている理由。
グラスタさん以外のメンバー全員がP-BLOODによる感染症の再発で高熱を出して、ちょっと寝込んでいるのです。
まあ、すぐに治るとのことですが……フローリアお母さままで風邪をひくなんて……。
フローリアお母さまに付き添っていると、お母さまはこのように言ってきました。
「ふふ、世界花ちゃん、いえ、WFちゃん。娘にこうして看病してもらうなんて、なんだか感慨深いものがありますね。
本当ならグラスタさんと同じく予防薬を飲んで備えていたのだけど、ちょっと、WFちゃんに甘えたくなっちゃって。
てへ、ごめんね?…げふっ、げふっ」
お母さまは本当におちゃめな人なのだな、と、思いながら今回の日記は終わりです。次は誰が書くのでしょうか……。