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安里杏莉は、ただずっと、平凡な日常を望んでいた。
いつも通りに学校に行って。
いつも通りに友達と話して。
いつも通りにバイトをこなして。
いつも通りに家族と団欒して。
そうしていつか、自分と結ばれる『運命の人』に出逢い、幸せな結婚生活を送る。
安里杏莉を異質たらしめるその願いすら、そこだけを見れば、何も特別なものでは無い。
ただただ平凡な少女が見る、ただただ平凡な将来への希望だ。
ただそれを叶えるために、安里杏莉は努力を惜しまず、そして酷くストイックだった。
ただ、それだけなのだ。
───なのに。
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安里杏莉 「……なに、これ……」 |
目の前に広がる荒廃した世界───ハザマは、
安里杏莉の知る『平凡な日常』から、酷く遠くかけはなれたものだった。
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安里杏莉 「侵略……とか、言ってたよね……でも、本気で……え……っ??」 |
イバラシティという、比較的特殊な街に生まれ育った彼女にも、
この状況は直ぐに理解ができるものではなかった。
誰かが異能で、タチの悪いイタズラをしているのかもしれない。
真っ先に浮かんだのは、初めて『侵略』の話を聞いた時と全く同じ、比較的現実的な想像だった。
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安里杏莉 「……大人……そうだよ、大人を探さないと」 |
意外と冷静に、安里杏莉は1歩を踏み出す。
……異変が起きたのは、その時だ。
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安里杏莉 「(…………あ、れ……?)」 |
ぐらり、頭が重い。そう思った時には遅かった。
身体を支えていられなくなった安里杏莉は、がくりとその場に崩れ落ちる。
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安里杏莉 「(なんで、……すごい、ねむ、)」 |
そんな場合じゃないなんて、確かに脳が警鐘を鳴らす。
けれど無意味だ。抗うことができない。
いつしかその警鐘も聞こえなくなる。聞き取れなくなる。遠のいていく。
まるで、自分が自分じゃなくなるような、そんな錯覚と共に、
安里杏莉は、その場に、倒れ込んでいた。
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安里菜々 「……どーいうつもりかは、まあ、分かったよ」 |
安里菜々は、その光景を、ずっと見ていた。
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安里菜々 「聞きたいこと、たくさんあるよ。でも、今はそれどころじゃなさそうだし。 その話は後で、聞かせてもらおうかな」 |
冷めた視線に、確かに面影を感じる。
けれどそれを懐古している場合でもないのだと、ひとつ嘆息をした。
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??? 「ねえ、ダーリン。それで、これからどうするのかな?」 |
明るい声。この荒廃した世界を、テーマパークかなにかと勘違いしていそうなほど。
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??? 「何でもいいなよ。キミの願いなら、なんでも聞くよ。 ……だって、」 |
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??? 「ダーリンは、ハニィの運命の人なんだから」 |
そう笑う少女。
一瞥をして、少しの思考。口に出すには、勇気がいった。
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??? 「…………君には、安里杏莉の、代わりになってもらいたい」 |
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??? 「───ふーん、なあんだ。そんなこと。いいよ。任せてよ、ダーリン」 |
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??? 「ダーリンの願いは、全部叶えて、あげるからさ」 |
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○月✕日
引っ越しをした。大学の入学に合わせて、両親も一緒だ。
一人暮らし、してみたかったけど、こればっかりは仕方がない。
隣の部屋の家族から挨拶をされる。安里。あさと、と読むらしい。
挨拶に来た歳上の女の人、杏莉さんは、なんかイマドキの女子、って感じだった。
少し苦手だ。多分いい人なんだろうけど。陽キャって感じがして。
母さんと安里さんちのお母さんが意気投合してしまったから、多分長い付き合いになるんだろう。
大学生活は、騒がしくなりそうだ。
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