佐野エイジ(アフロ男)と、倉原葉子(カレー女)と、遠野透子(ハーフエルフ女)。
三友明楽(男子中学生)は、三人と共に荒れ果てたハザマの地を進む。
遠野透子……トーコはアンジニティ住民だったことが判明したが、
「アンジニティ民!?敵か!?アフロか!?」
「えっ!?トーコちゃんなの!!?えっ……髪とか…耳とか…服とかが…なんか…なんか………なんかエロい。」
「味方だけど、アフロではない。あと誰が淫ピンやねん」
そんな(?)一幕があっただけで、エイジと葉子はそのまま、すんなりとトーコを受け入れた。
敵か味方かなんてきな臭い話は既に終わり、
今はもはや、雑談をしたり、一発芸を披露したりしてる。仲良しかよ。
青白い顔を浮かべた明楽だけが、状況に取り残されている。
明楽は、トーコが腰に下げている剣を見つめる。
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(二人共……正気なのか?なんで、そんなすぐに受け入れられるんだ? 世界ごと乗っ取ろうとしてる連中なんだぞ……? 嘘を吐いて、ぼく達を騙しているって可能性だって…… 油断したところで後ろから刺される可能性だって……ゼロじゃないんじゃないか?) |
トーコには、確かに悪意があるようには見えない。彼女の弁も、理屈の上では理解ができる。
だが、恐怖という感情がひっかかって、それを飲み下せない。それらも含めて、すべてが彼女の演技だったら?
それとも、そんなことを疑うぼくの性格が歪んでいるだけなのだろうか。
ここでトーコの同行に異を唱えれば、まず間違いなく不和を招くことになる。
というか、嫌がっているのはぼくだけなのだから、ぼくがこの三人から離れればいいだけのこととなる。
だが他に同行を頼るアテが(少なくとも今は)ない。
……いや、もしかするとエイジと葉子すらもグルで、自分を陥れようとしているとしたら?
ぐるぐると思いつめていた明楽だが、
トーコの声で現実に引き戻される。 しまった。剣、見つめすぎた。
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「………いえ、すみません、じっと見ちゃって。剣、格好いいな……と思って」 |
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「……葉子さん……勘弁して下さいよ。脚じゃなくて、剣です。 っていうかトーコさん、ぼくと佐野さんを髪型で呼び分けるのはやめてもらえませんか? ぼくには三友明楽っていう、れっきとした名前があるんです」 |
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「佐野さんややこしくなるから話に入ってこないで下さい。 僕がアフロにしたら髪型で呼び分けられなくなるから解決するとかそういう問題じゃないんです。 だいいち、1パーティに2人アフロは絵がうるさすぎる」 |
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「葉子さん今ボソっと「レッツパーリナイ」って言いませんでした?」 |
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「アフロ3枚って何!!?」 |
明楽は馬鹿馬鹿しくなったので、考えるのをやめた。
ホシイモに物凄い勢いで駆け寄られたり、軍手に軽快なステップで追いかけられたり、
すったもんだしつつ、なんとかハザマ生活にも適応しはじめた頃。
明楽はチャットを受信した。
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明楽ちゃん、今どこにいるの? パパと樹ちゃん司ちゃんは、ママと一緒に居るわ。 落ち着いたら合流しましょう? |
安堵した。家族は全員無事なようだ。
もしかすると、明楽から発信したメッセージアプリに気づいて、チャットを送ってきたのだろうか。
明楽のスマホはといえば……そういえば、充電を節約するために電源を落としたままだった。
起動したら返信が来ているのかもしれないが、
充電設備が見つかっていない現状、バッテリーは温存しておきたい。
気にはなるが、今は起動せずにおく。
さて、チャットの内容だ。
明楽は考える。三人との同行をやめて、家族を頼るべきか。
だが家族が今四人でいるなら……既に次元タクシーに乗り切れる限界人数だ。
合流した場合、誰かが別行動になるか、二人・三人に別れるしかない。
戦闘。家族の中で、まず間違いなく戦力になるのは父と兄だ。
二人とも身体能力が高く、先天的異能も戦闘向きである。
少なくとも二人がセットでいるならば、少し頼りない母と弟も大丈夫だろう。
だとすると自分が加わることで、その盤石の布陣を崩さざるを得なくなるのは忍びない。
そして何より、明楽は家族と共に戦うことは極力避けたかった。
正確に言えば、家族の前で異能を発動せざるを得ない状況に身を置きたくなかった。
明楽は、自分の先天的異能を、誰にも知られたくないと考えている。
それは家族に対しても同じであり、ある意味、他人以上に家族に知られることを警戒している。
明楽の先天的異能には、遺伝的形質が色濃く出ている領域がある。
“三つの力で一つの異能を形成している”、という点だ。
少なくとも父と兄の異能にこの性質があることは分かっているし、
父以上の祖先もその傾向があることが分かっている。
すなわち家族には、力の一端でも知られてしまえば、そこから全体像を推測されてしまうリスクがある。
それは明楽にとっては、たとえ安全と引き換えにでも避けたいものだった。
生涯をかけた夢の、障害となりうる事態だからだ。
少し考えたのち、明楽は返信する。
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母さん、ありがとう。ぼくは今、チナミ区K-14のあたりにいるよ。 知り合いの大人の人達に同行させてもらってるから、ぼくのことは心配しないで。 信頼できる人達だから大丈夫。何か困ったことがあったらまた連絡するよ。 くれぐれも気をつけてね。 |
……チャットを閉じて、ふう、とため息をつく。
と、いうか、だ。
そうか。チャット。あの榊とかいう男が毎時間送ってくるやつ。
よく分からない機能、鬱陶しいと思っていたが、これは受信や返信だけでなく、自分からの発信もできるようだ。
スマホで連絡が取れない間は、このチャット機能で連絡を取ればよいのだ。なんでもっと早く気づかなかったのだろう。
明楽はすぐさま、一番仲のいい友人に、まずチャットを送信する。
すぐに返信が来た。
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アキラ~!お前もハザマ飛ばされてんのか~オレもだよ~ |
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お前はイバラシティ側でいいんだよな? |
……………。
忘れてた。
そうじゃないこともあるんだった。