「──あったま痛ぁい……」
流れ込む記憶に混じり、随分と昔の──まだ、幼かった頃のビジョンが見えた。
兄さんとの思い出、いちばん大切な記憶。祈月が、"クー"に生まれ変わった瞬間。
ぷるぷると月は頭を振り、思考を切り替える。
今は感慨に浸っている場合ではない。
状況は進んでいく。敵対者を倒し、先に進む。
『system:アンジニティが接近しています』
Cross†Roseがアラートを鳴らす。
近寄ってくる人影が、一つ。
「上等。邪魔をするなら……燃え散らすっ!」
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.Duel battle finished… win!
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「うん、受取り出来ました。ありがと、ハルくん」
チャットウィンドウを展開し、友人にメッセージを送る。
Cross†Roseに『取引生産』という項目を見つけた月は、さっそく近辺のユーザーに連絡を取り、武具生産の依頼を掛けてみる事にした。最初の1時間には使い方がわからなかったのだが、友人である江華からは武器のデータが届いていた為、彼女はとっくに使いこなしているようだ。おかげで参考にはなったが。
どうやら現在地点の周囲にいるユーザーにしか依頼は出来ないようだったが、その中に一人、見た名前があった。
それが『高宮清春』。月の友人の一人である。
届いた防具データには、メッセージも併せて添付されていた。その内容は、
『クーさんは心配ないとは思うけど、気を付けて』
「……確かにぃ、余計なお世話ですけどぉ、言い方ぁ」
ふは、と息を吐く。明らかに、この状況で女の子にかける言葉ではないのではなかろうか。いらない世話だとしても、それでも少しは心配して欲しい。全く、あっちでもこっちでも、高宮清春には何も変わりがないようだった。
同様に、ポチ・アインシュヴァイツァーにも。
高宮清春の隣に展開された、もう一つのチャットウィンドウ。
少女、月は安堵する。──タイムラグがあるが、返ってきたチャットの映像と文の内容は、彼女を安心させてくれるものだった。
彼がまた、月の事を心配してくれているようのも、むず痒いほど嬉しかった。
その想いは、1時間毎に、ずっとずっと強くなっていく。
──本当なら、今すぐに、一息に彼の元へ飛んでいきたい。
けれど──
「わたしは。……クーは、異形を狩るもの」
命の使い方。
拾ってくれた人の為、せめてこの力を正しい事へ使わなければ。
だからこそ、この事態を収束させる為に──今は。人に仇為す"敵"を狩る。
「……ん、新しいチャット?これは……うさのさん?」
ポップアップと共に、新しいチャットウィンドウが展開する。
送信元は『Eno.245 初早森 兎乃』。まだ友人とは言えないが、知らない仲ではない相手だ。
とりあえず、差し障りの無いメッセージを返信する。
ひとまず、見るべき物とやるべき事は終わった。──そう判断した月は、Cross†Roseのウィンドウを閉じる。
そんな折、近寄ってくる気配が二つ。これは、事前にここを集合場所にしていた相手二人。
異形狩りが揃う。