「……ハァ」
またここか……。
これで3回目?
「前がちょうど20日前、その前も……ってことは」
大体20日周期でこのバカげた戦争ゲームとやらが行われていることになる。
まぁ、それが分かったところで何ができるわけでもない。
……いや、できるか?
20日もあればもっとしっかりした武器や道具の調達も
「あいつ、また難しい顔してるな」
「メイはまた難しいこと考えているのですか?もっと相談をすべきです」
いや、無理だった。
この世界のことは、元に戻ると忘れてしまうんだった。
覚えてるんだったらまず、一緒に行くことになったこいつらに何かしら話をつける。
……いくら私でもつける。
「もっと何か事前準備できないかと思っただけ、人をコミュ障みたいに言うな」
「お、おう……」
「強いて言うなら、飲もうと思って買っておいたコーヒーが冷めるなと思っただけ」
「それは悲しいのです……」
すごく同情された……え、そこまで悲しそうな顔する?
それにしても、ここのことを忘れるというのはどうにも都合が悪い。
現実では普通のやつも、ここだと本来の姿?とかいうのに戻るらしいし、
現実にいた人でこっちにいない人、っていうのをリスト化できれば
直ぐにこんなバカげたことも終わるのに……。
まぁ、姿が現実で世界に合わせて変わるというのは、
侵略してきているのだから当然か。
そうでもしないと無理ではあるか。
いい迷惑だが、戦闘っていうのは守る側に大概有利だから
ある程度は攻める方に勝算のある戦いでないと厳しいってこと。
でも……
「現実では侵略者が普通の顔して接してきてるっていうのは、すでに侵略が成功され始めてるみたいでヤだな」
「お前もそういうのは嫌うのな」
「ガキの頭足りてない悪戯じゃない、戦争なんでしょ?いくら私でも、我関せずって訳にはね」
「ふーん、『私には、関係ないし』っていつも通り言うかと思ったけど」
なんかほっとしたような変な笑いを浮かべてるやつを横目に見る。
私も、こいつとこいつらと一緒になるとは思ってなかったな。
―――――――――――― ハザマ時間 1時間前 ――――――――――――
バタンッ
「…………」
「じ、じゃあ……宜しく」
私が入ったのを確認すると、なぜかどもりながらアキラは前に声をかける。
次元タクシーのドライバーが目くばせだけでうなずくと、
滑るように車が発進した。
ここにきて変な奴にあったものだ……。
高校で見かけはしたけど……ちゃんと話したのは何年振りか。
「…………」
「…………」
「…………」
「……あ、あのさ」
「ん?」
「ひ、久しぶりだな」
「……そうだね、ちゃんと話すのは久しぶり」
「お、おぅ……」
それだけ言うと、また黙ってしまう。
何を緊張しているのかは知らないけれど。
取って食いやしないのに失礼な奴だ。
さっき私に『これ、折角だから一緒に行かないか』と
声をかけてくれた度胸のあるやつと同一人物とは思えない。
まぁ、珍しく私もそれに応じてしまったので、
このハザマという場所がいかに意味不明か、
そして心細い状況かというのがよくわかる。
なればこそ、見知った顔を見たら一緒に行動したくなるのは道理というものだが……。
さて……と、窓の外を見ると見知った姿を見つける。
「ちょっと、運転手さん止めて!!」
キキィッ!!
「っとと、なんだよお前」
頭を振りつつぼやくアキラに構わず、窓を下す。
「ちょっと、砂森……砂森緑!!」
通り過ぎた少女、それが声をかけられて気づいた様子ながらも
足取りは変わらずゆっくりと迫いついてくる。
「……あなた、一人なの?」
来るまで大分待たされ、脇で止まったのを確認してから身を乗り出し声をかける。
隣や運転席からの圧力的に、待ち時間がとても長く感じたのは言うまでもない。
コクリとうなずく少女。
「じゃ、さ……乗っていきなよ」
……意外なセリフが出たことに自分がびっくりしている。
私も、心細かったのかな。
それで見知った顔が見えたから?
はは、笑える。
固まってるこちらを見て少女は
ガチャ......バタンッ
「「え、そ(こ)っち!?」」
私とアキラの声がはもった。
なぜか反対側に回って入ってきた少女、砂森緑は不思議そうな顔をして
「そちら側からは霧ヶ谷さんが寄りかかってるので開けられないのです」
ごもっとも、ごもっともだが
「その前に何か反応をしてよ!?」
そうすれば私だって一旦中に入って詰めるなりしたよ!?
「ダメだったのですか?」
「いや、そうじゃ……砂森、あんたそんなキャラだったっけ」
実際のところ、自分はクラスであまり話すような人間ではない。
だから今一つかみどころが分からない。
「霧ヶ谷さん……メイさん、いや、メイはもう少し周囲と話をするべきなのでは?」
いきなりそう来たか、しかも呼び捨てで。
「私は砂森緑です、宜しく」
「お、おぅ……」
律儀に自己紹介をするミドリ。
アキラ、あんたはその返事ばっかりだな。
「よくわからない状況なので、四の五の言ってられないのです。これでも自分史上最大のグイグイ率なのです」
「「確かに」」
その考えは正しいかもしれない。
「あ、すみません。お願いします」
まだ?という目線を送っていたドライバーにアキラが頭を下げる。
そしてタクシーは出発し……。
これが、いま私たちが一緒にいる理由。