「……ねえ、どう思う?舞」
「そこ、私に振るところですか!?」
顔見知りの――しかし、少し様相が違っていた女性とのやり取りを踏まえて、翔華は舞華に振る。
イバラシティ、チナミ区にできていた飴専門店の店主。翔華の好みどストライクのフレーバーを出し、その種類も様々で非常に好みの店だったが。
ついつい、多めに買い込んでしまい、消費しきるまでは再びの来店もできないと思っていて、再度の来店はしていなかったのだが。
「いや……姉さんの顔見知り、なんでしょう?私に振られてもわかりませんって。」
「そうだよねえ……。赤ちゃんの頃なんて覚えてないし。」
「流石にそういうことでは無いと思いますけど。
……でも」
なにかに思い当たったのか、舞華は首をかしげながら、考え込む。
「こっちの私は覚えている。つまり、向こうの飴屋さんは知らないってことですよね?」
「え?え、ああ、うん。そうなるのかな。」
「それって、つまり――――」
言おうとして、口を噤む。
言ってしまえば、姉は彼女とどう相対すれば良いのか分からなくなるだろう。しかし、相手にしてみれば、そんな事は知ったことではなく、いつか明らかになるだろうという事柄ではある。
だけど、だけれども、運が良ければ、コレきり会うことは無く、知らないままでいられるかもしれない。
しかし、遅かった。
正面には、姉の顔があった。
青ざめて、眉を潜めて、口の端を震えさせている姉の顔が。
「あの人が、侵略者、ってこと……?」
「それは、あの胡散臭い男の話を信用すればという話に、いやでも、姉さん、それはまだ……!」
「……いや、そう、かもしれない。でも、あの雰囲気が変わって、それに、嘘を付く理由があんまり見当たらなくて。」
姉は、やさしい。
それは、妹である自分が、一番良く分かっている。
だから、あの仕組みを聞いたとき、姉は、向こうで顔見知りとなった侵略者と、戦えないのではないか。戦えたとしても、心をボロ布のように裂かれながら茨の道を進むことになるのではないか。
そう、思ったのだ。
「どうして……っていうのは、違うんだよね。あっちが、偽物で、あれが、ここにいる方が本当なんだよね。」
「姉さん……。」
「聞かなきゃ。」
「え?」
「私の、拙い飴細工。褒めてくれたんだ。あれが、あれは、本心なのか。
あれは、あの人は、変わったのか、変わってないのか。そんなに知ってるわけじゃないけど、戻ったら忘れてしまうけど。」
「姉さん、それは……」
ただ辛くなるだけだ、と、侵略者は倒さなきゃいけないと、舞華は言う。
多分、それは「納得」に必要なことだ、と、翔華は結論付ける。
それがこれから、どれだけ自らの首を締めることになるのだろうか。知ってか知らずか、彼女は茨の道を歩き続けるのだろう。