「……で、何処行ったんだろう?」
「……後から接触してくるんじゃないですか。」
また、再びこの世界に戻ってきたとき、いつも困るのが直前の記憶との差異だ。
体は前回からの連続性を維持しているが、精神は全く違う時間の流れの中にあって、ギャップが激しい。
現実世界の私は思いつきの筋トレのせいで、急激な筋肉痛と事故による負傷の痛みに襲われていて唸っていた筈なのだが、こちらの体はピンピンしている。
逆に、精神の連続性は途切れているから、こちらで今まで何をしていたか、思い出すのに少し時間がかかるのが難点だ。
だから、飴屋さんを見逃してしまったのだが。
「んー、とりあえず、先に進んでみようか。敵対しているっていうなら、多分、あっちから接触してくるだろうってのは確かだし。」
「そうですねえ。それに、侵略、というか、影響力?でしたっけ。どちらが優勢かというのも、未だにわかりませんし。」
会話を進めながら、奇妙な同行者と一緒に先に進む。
周囲には謎の影、チンピラ、石像などなど、イバラシティ内でも闊歩していたら通報されそうな、異形がはびこっている。
これを見ているとイバラシティはなんと平和なのだろう、と考えてしまう。異能という、ある意味危険な能力はあれど、それは遍く全ての人々に存在し、治安の悪化という点では、しっかりと行政が機能している。
しかし、ここはどうだ。荒廃しきり、取り締まる警察は影もなく、生き物はこちらを見かければ、数瞬の躊躇すらなく襲ってくる。理性が存在しない世界と言っても良い。
こんな世界、妹と散歩するには、少々どころではなく、危険である。
まして、アンジニティなど――――。
「……姉さん?」
「お、おぉ?何!?」
「いえ、何か考え事していたようなので。」
「んー、いや、絶対に勝たなきゃなあ、って思っただけで。」
「そうですか?何か秘密にしてるみたいで……。」
「いやその、……ちょっと恥ずかしくて。」
面と向かって妹に守るとか、大事にするとか、それこそ漫画とか創作物の中でしか言わないセリフを言うのは少し気恥ずかしい。
大事に思っているのは確かだから、それが最低限伝わればいいと思ってはいるけれど。
「舞こそ私に秘密にしてること、あるんじゃないの?ねぇ?」
「……いやその。あるにはありますけど。」
「なんか煮えきらないねえ。えー、秘密ってなーに?なあにー?」
「妹の秘密を探ろうって、それ姉としてどうなんですか?」
「今お姉ちゃんは鏡をアンタの目の前にドンと置きたいよ。」
……少し生意気なところはあるけれど、これでも大事な妹なのだ。うん。だから、守りたいと思うし、酷い生活などさせたくもない。
だから私は、アンジニティを許さないのだ。