廃墟の様になった知ってる場所、とよく似た場所。
はて、宿守神社はどうなっているだろうか。いや…どうなっているかも何も、例外的に被害がない、なんて事はありえない。あそこに結界の様なもの
地面を踏みしめる事は出来ない、この体は基本数センチ浮いて移動しているから。
楽だ、などとは思わない。地面を歩いて、躓いても良い、走ったり、そういう事をしたい。
しかし、一度足を地に下ろせば僅かに咲いているかもしれない草すらも瞬く間に枯れてしまうであろう。
だが、宿守悠里ならばあの神社の階段を登れる。
あの町の自分ならば、と。あの町にいる時だけはユーリですら経験した事のない日常がある。
あの町を侵略する側の者達の中にもそういった思いの者はいるだろう。
だが、あの町の侵略という発想は私には浮かばない。
何故なら、皆のいるあの町だから好きなのだ。侵略した末に自分の場所として欲しいわけではない。
私はどちらかが正義でどちらかが悪いと言いたいわけではなく、ただ守りたい。それだけ。
あの神社で出会いを重ねる度にこの不毛の土地に悲しみを覚える。
まるで、あれが夢だったみたいで…あの世界を、思い出す様で…あの世界がまだ続いてるみたいで──
…しかし、決して宿守悠里も平和なだけの日々ではなかった。
このユーリと同様、咎のない者でもなかった。
“私”が小学生の頃だった。
学校で飼育している兎が寿命を終えてしまい、同じ飼育委員の友達が泣きながら動かなくなった兎を私に見せに来た。
1年前に母を亡くした時の事を思い出して、私もすごく悲しくなってそれに手を伸ばした。
最期に撫でようと思った。
それが、私の異能を初めて知る瞬間だったのだ。
兎が目を開けて、奇跡に等しい事態に2人で目を見合わせてとりあえず喜んだ。
だが、それはかつての大人しくも人懐っこい愛らしい兎の姿はなかった。
頑丈な歯で私の腕に食らいついて来て、あまりの痛みと驚き、そして相手が相手だけに振り払う事も出来ず悲鳴をあげる事しか出来なかった。
それを助け出そうと友達が兎を払おうとしたら今度は目標が変わり、首筋に──
暫くしてその事態が落ち着いたと同時に私と友達は病院に運ばれた。
幸い傷口は深くなかったのだが、それを偶然だとしか最初は分からなかった。
しかし、異能が力を見せる様になってからというもの、次は落ちてる枝、その次は花──
私も、皆も、最早偶然とは思えなくなった。
恐れられて仕方がなかった。怪我人が出た以前の兎の時も…自然、繋がる。
証拠らしい証拠こそなかったからその時は警察沙汰にこそならなかったものの、同じ生徒達にとって穏やかとは言えない事態だった。
私の手の法則性をその日から子供なりに考えた。
1に私が触った物は等しく戦意或いは殺意に満ちた物になる。
2に流石に調理された物とかは大丈夫、鉛筆なども大丈夫、基準は不明だが素材に近い物は動く。
このレベルしか分からなかった。
説明書の1つでもあれば良いのに、などと学校用のノートを前に溜息をついていた。
翌日、隣のクラスの少し丸い体型の男子と喧嘩になった。
掴み合いにになった時に、手で思い切り掴んだら…
更に怒って先生が止めに入らないといけない程に手がつけられなくなった。
その男子はいわばガキ大将。その男子は私の力の事を信じ込んで、自身のテリトリーを侵されたと勝手に判断したらしく。言わば、いちゃもんだった。
それだけにここまでになるのはおかしい。
次に、体育の授業中にこけて泣いてる子を励ます様に肩に手を置いたらその子が足の怪我から、菌が入り、化膿、悪化、末の足の切断にまで想像が至り、その顔は絶望に満ちた泣き顔と声に変わった。
やはりその情緒の不安定さも私の力の影響か、と。
3に判明。人に触れれば負の感情を増幅させる力がある。
自身への不信感から不登校になってしまった期間が少なからずあった。
姉、優香は私の手についてもっと知ろうと申し出てくれた。
「悠里、貴方の手は怖い手ではないの。今触ってもなんともないでしょ?きっと、その異能には何かしら法則性があるの。だから、それとの付き合い方を覚えましょ?ね?」
その言葉で、少しだけ、救われた気がしてまた学校に行く様になった。
極端な迫害、それはなかった。普通のいじめだとかは小規模ではあったが、幸い味方してくれる人も少なからずいた。
加えて、女男だとか、汚れた手だとか、そんな中傷には消しゴムでもぶつけて黙らせてやれる。
所詮は子供、気になりなどしない。自身も子供だったが、たむろしなければ私1人ロクに相手が出来ない奴など気になりはしなかった。
1番、怖いのはいつだって自分自身。
これは小学生の頃の話。これはまだ、これでもまだ、マシだ。
怪我をさせた友人も友人でいてくれたから…
だが、シャレにならないことが起きたのは、ここから先。
こればかりはダメだった。力との付き合い方、そう力の発動タイミング、これを把握していない事と、それを知る事が遅れてしまったが故に起きた。
…しかし、宿守悠里のそれもまた、この町では特別な事ではない。楽なばかりでもなかったが、異能によるそう言った事は、珍しくはないだろう。
それでも…
それでも、神社で色んな出会いをしている悠里は、羨ましくもあった。
過去に何があっても、未来があるなら、きっとあの世界の人間達と違って、私という人間を決して忘れないでいてくれる人達と出会えているなら。
あれがユーリ(私)の可能性、私もあんな風になれたのかと、手遅れな学習をしている。ユーリは、処刑を待つ存在なのに──