ビリッ
既に裾の方がボロボロになっている喪服は更にハザマ世界で破れ、
下から露わになる重い枷のついた足は、生者、あの世界で巫女をやっていた人間とは結びつかない人外の色だ。
この荒れ果てた世界で時間を過ごす程に寂しさが湧く。
忘れられた神、追放された神、もう故郷に思いを馳せても、誰も私を知らない。
あの世界もきっと、こんな風に荒れ果てていたのだろうか、本来ならば…いや、そうはならなかった。私がさせなかったではないか。
……また、あの時の事を思い出してる…
…私はいつ解放されるのだろう、それとも解放(処刑)されるのだろうか。
宿守悠里は宿守悠里の幸せを掴んで、ユーリ・メルクスとは別であってほしいものだ。
もし、ここの私がいつか死んだとしたらと考える程不安は増幅される。それ程までに、今の宿森悠里は幸せそうだ。
好きな人が出来て、友人が出来て、色んな人と出会って…
自分の事なのに、違う人間を見てるみたいだ。
羨ましい…
ユーリにはおおよそ友人と呼べる存在はいなかった。
信仰の対象に馴れ馴れしく出来ない、と言っていた者の思考もその視点から見れば納得も出来るが、
ただの予知が出来る人間だったのだから、それを馬鹿馬鹿しいと言ってくれても良かった。私もそれで良いと言ったのに…
あの町ならばかつての私も普通の人であれただろう…
……人間ではなくなってから幾らの時を重ねただろう、そして神の座から追放されてから、どれだけ経ただろう。
そろそろこの姿には慣れてるはずなのに、あの町で久々に人として生きているからだろうか、この姿を人に見られたくない思いが湧く。
いや、そもそも見られれば攻撃をされるだろうか、何せ見るからに、化け物ではないか。
……悪い方向にばかり思考が進む。
自分でも呆れる。こんな事ばかり考えているのは…
身から出た錆、といえば良いのか…故に、嘆く権利はないだろう。
それに、追放されなければあの町に仮の姿を得て暮らす事も、彼等……そして、彼女にも出会えなかっただろう。
そう思えば、悪くはないのかもしれない。
反逆者の汚名を被ったところで今更痛くも痒くも無い。元より、私はアンジニティ側の住人であっても心はユーリ、そのままだ。
……人のいない方へ、方へと進む。
この世界では異能が強化される、その影響だろうか、悠里の異能の範囲が広がっているのか。
触れれば、なのも違いないのかもしれないが、何せ足をつけば一定の範囲で私の異能が力を発揮してしまう事が判明した。
それに耐えきれない枯れた植物などは灰になった。力ある者は私の手駒(魔物)に変質した。悠里が触れた時に出来る暴れるばかりのアレとは異なり、一応私の異能の範囲内なら制御が可能だと判明。
しかし、植物の例を見る通り生命を得る力がなければ死んでしまうのか…では、人にかかる負の感情の影響はどれほどになってしまうのだろう。
それを思えばこそ…やはり人を避けて進まねば…
何故、私にあの世界の体現をこうも異能はさせたがるのだろう…
それが罪を滅ぼすという事だろうか。だが、私はあの世界に罪滅ぼしをしたいわけではない、あの世界を救済する為に犠牲にした者に償いたいだけなんだ……
…ただ、彼は律儀に私の所へ通信を送ってくれたな…
宿守悠里の夢の真相も、あの神社の神の正体も見抜いていた様だった。彼は無事だろうか…そして、彼はあの町を守る者か、それとも──
いや、それは…そればかりは考えるだけ、無駄だろう。
宿守悠里の友人、彼は大事な友人の1人だ、だからどのみち無事なら良いなと思う。
皆、皆、無事だろうか、皆は、どこにいるのだろう。
…人恋し神…か
そうだ、皆に会うわけにはいかないのに、会いたい思いも湧いてしまう。
私は、寂しいのだろうか。
いや、寂しがりやだとは、言われたな。
…ユーリの行く先は…
ユーリは一体、どこへ行けば良いのだろう。
ユーリ・メルクスはどこに行くか──