次元タクシーとやらから降りたら、そこは荒れ果てた世界だった。
遠く見える朽ち果てた建物に、人の生命の匂いはない。
灰色の空と赤茶けた土、黒ずんだ木々、奇妙な色の雲が渦巻く空からは陽の光が注ぐこともなく。
赤黒い海は死んだように波一つなく、大地には累積した毒々しい色の沼が溜まっているだけ。
死の世界だ。
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はかいしん 「・・・が、ここも。ちがうな」 |
この世界もまた、自分のいるべき場所じゃない。
そう破壊神は結論づけた。
あの、榊とかいう奇妙な男の言葉を思い出す。思い出そうと努力する。
チャットというものは奇妙なものだ。
声と姿は伝われど、実像があるわけでもなく、一方的に言葉だけを投げつけられる。
そう。一方的に。
一方的に、あんまり勢いよくまくしたててくるので、あんまり話を聞いていなかったのだ。
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はかいしん 「だいたいわかった」 |
たぶんなんか戦えといっていたような気がする。
じっさい、初めてこの世界で目にしたナマモノも破壊神に攻撃の意思を示した。
あんまりやる気もなかったのだが、けっきょく倒してしまった。
つまり、あれだ。
たたかって、たたかって、たたかいあわせ。
かちのこったら・・・・なにかこう、よいことがあるのだろう。美味しい食べるものがもらえるとか。
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はかいしん 「それで、たたかうあいてはどこにいる?」 |
きょろきょろと見回す。
開幕だなどと、じゃんじゃん打倒していくだなどと、景気のいいことを言ってた気がするのに、相手がいない。
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はかいしん 「・・・・・」 |
見つからないので諦めた。
ならばこちらから探すまで。破壊神はゆっくりと動き出した。
幸い、歩いているとすぐ転ぶ、あの忌々しい二本の足はこちらの世界にはない。
破壊神は元の体に近いカタチになっていた。
幼女の体はそのままに、腰より下には巨大な丸い肉の球のような、そこに縦に裂けた巨大な顎が牙を剥いている。
それが、ふわりふわりと地面をほんの少し離れて宙に浮いている。
短くて細くて生白い、役に立たない子供の手とはべつに、巨大な爪の手のひらが二つ、傍に浮かんでいる。
ついでに、肉の球からずるずると長い尻尾が垂れて、地面を滑っていた。
本当は破壊神の名を示す巨大な顎はもっとずっと大きいはずなのだが、破壊神は贅沢は言わない。
カラダが宙に浮いているだけでも、ずいぶん落ち着くからである。
破壊神というものは、こうでなくてはならない
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はかいしん 「とりあえず、土でも食べてみるか」 |
破壊神は、地面に巨大な顎そのもののカラダを沈めていく。
地面を幾重にも牙が生え揃った顎で噛み砕きながら、もぐもぐ飲み込んで破壊神は進んでいく。
移動したあとには、ちょっとした溝が地面に残っていた。