この世界は狙われている。
そんな妄想に囚われた人間がいた。
これが一人なら問題は無かっただろう。
人一人の異能で出来ることなどタカが知れているのだ。
だが、その人間は自身の力を大きく超えた世界の危機に対処する為、手段を模索した。
そして単純な答えに辿り着いた。
同じ考えの者を集め、一人では成しえない強大な異能を作り上げる。
そして、人間の枠を超えた異能を納めることの出来る特別な人間を異能で作ろう。
この考えは紆余曲折を経て数百人規模の力で実現に至るのだが
そのときには危険な新興宗教として世間では扱われており
計画した特別な人間が一人完成したところで公権力によりこの計画は集団ごと押さえられ
それ以上の成果を挙げる事は無かった。
そして、完成した一人も侵略者のいない時代に目覚めることはなく
保護された先で眠り続けることとなった。
以後十年間、一度も目覚めた事は無い。
ルールを解釈すると、自分に意識があるのはこの戦場の世界にいるときだけらしい。
自分が目覚める条件は敵意を感知することだが、そういう感覚がかなり鈍いのか並大抵の敵意では目覚めない。
十年以上一度も目覚めていないのだからそういうことなんだろう。
ここなら敵意や害意やその他色んな悪感情が渦巻いているおかげか、さすがに目が覚めてくれる。
とはいえ、せっかく起きてもこうも荒れ果てた世界では面白くない。
自分が目覚めるような状況なら荒れているのは当然だが
さすがに世界まるごとの規模で荒れ果てているのは本当に面白くない。
睡眠時間のストックが活動時間にすると10時間ほどしか溜まっていないので
この戦いに最後まで関わることも結末を知ることも出来ない。
これでは面白くない。
初めての起床なのだから、せめて何か面白いものを見つけて終わりにしたい。
面白いかはわからないが、目の前には変な声で鳴いている怪物がいる。
戦うと面白いかもしれないし、倒したあとに面白い者を探しに行けるかもしれない。
まずは前向きに考えないと。
前向きにすれば面白いものがあるかもしれない。
かもしれない。