――2018年8月。東京某所。
よくある雑居ビルのオフィス。
そこで一人の人影がキーボードを叩いている。
……だが、その人影はオフィスビルには似つかわしくない姿だった。
銀髪のおかっぱに意志の強そうな蒼い瞳。それだけでも日本のオフィスでは稀有だが、
ランドセルを背負っていてもおかしくない年齢の少女にしか見えないのだ。
……ブルブルブル。その少女の座るデスクの隅に置いてあるスマートフォンが振動する。
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少女 「はい、こちら"ゼルエル"です。」 |
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??? 「私だ。キミに、いや、キミの部下に頼みたい仕事がある。」 |
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ゼルエル 「チームではなく、部下にですか?」 |
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??? 「ああ。"ザミエル"単独に任務を頼みたい。ラボの方にも話は通してある。」 |
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ゼルエル 「なるほど。任務の仔細は?」 |
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??? 「イバラシティ、と呼ばれる島へ潜入し――」 |
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??? 「キミのチームでは"ザミエル"が適任だろう。 先日も、単独で任務をこなしたと聞く。」 |
日本によく似た街への潜入。
"ゼルエル"自身ではどうしても目立ってしまう。"アゼル"も同様だ。
現在高校生として日常に溶け込んでいるという事を加味すれば、"ザミエル"が適任だろう。
だが、懸念もあった。
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ゼルエル 「長期の潜入任務となると、健康面が心配なのですが、そこはどうお考えで?」 |
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??? 「問題ない。それも含めてラボには調整を依頼している。」 |
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ゼルエル 「……了解しました。"ザミエル"にはこちらから伝えておきます。」 |
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??? 「では、いい報告を期待している。」 |
……そうして通話は切れた。そしてすぐ、スマホを操作し、メッセージを送る。
数刻後、ノックの音の後、一人の人影がオフィスに現れる。
色素の抜け落ちた髪、病的に白い肌、目の下の隈が色濃い小柄な少年だった。
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少年 「……"ザミエル"、ただいまここに。」 |
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ゼルエル 「よく来た"ザミエル"、上からお前指名の任務だ。」 |
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ザミエル 「俺を指名……ですか?」 |
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ゼルエル 「ああ、そうだ。任務の内容はイバラシティ、と呼ばれる島へ潜入し――」 |
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ゼルエル 「以上だ。何か質問はあるか?」 |
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ザミエル 「問題ありません。拝命いたしました。」 |
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ゼルエル 「では、早速出立の準備を頼む。私からの命令は2つ。 "生きて帰ってこい"そして"『堕ちる』な"……以上だ。」 |
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ザミエル 「畏まりました。この指令、必ずや成功させて、帰って来ます。」 |
そうして"ザミエル"はオフィスビルを後にする。
残された"ゼルエル"はというと、ひとつため息をつき。
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ゼルエル 「……ふぅ。」 |
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ゼルエル 「ああは言ったが、やはり心配だな……。」 |