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ルチェルの一週間

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Diary
祭祀殿最終拠点の攻略が終わった。
召喚士が二人いただとか、勝利ではなく敗走なのだとか
気になる噂は色々流れているが、とにかく終わってしまった。
帰還の時が来たのだ。

帰還の儀式も、形式的にはコンファインの儀式と大して変わらないようで
いつものように、キャンプの天幕内に敷かれた
なにやら複雑な模様が描かれた敷物の上に横たわる。
コンファインの時と違っているのは、隣に横たわっているのが
次の依代ではなく、ミニだということ。
おかげでちょっと狭い。尻尾が敷物からはみ出そうだ。

尻尾をなるべく縮めながら、ぼーっと天井を眺めていると
召喚士の詠唱が始まった。
巫女もまた、召喚士の隣でばたばたしているようだ。
詠唱の内容は相変わらず理解できないが、
彼女の声を聞くのもこれが最後かと思うと、妙に名残惜しくて
一字一句聞き逃さないよう、自然と耳をそばだててしまっていた。

やがて眠気にも似た眩暈が訪れ、目を閉じる。
額の辺りを上に引っ張られているような感覚。
それに逆らわず、すぽんと身体から抜け出す。
そのままどんどん上へ登り、天井をすり抜け、雲を抜けて、
星空も越え――る前に、ちょっと下の方を振り返る。
雲間から見えたカレイディアは、思っていたよりも小さかった。


 ◆  ◆  ◆


――厚い雲と煙と海に覆われた、懐かしく湿った世界。
私の家は割と高い山の中腹にあって、たまに雲や煙が晴れると
ちょうど吹き抜けの天窓から日光が入ってくるようになっている。
その光が綺麗で暖かくて、とても気に入っていたんだ。
カレイディアに喚ばれたのも、そうしてうとうとしていた時だったっけ。

ほら、あの出っ張った岩の辺りがそうだ。
隣の駐車場にもちゃんと、白い屋根に深緑のボディのミニが停まっている。
けど、こんな遠くから見ても、ちょっと汚れが目立つ。
えーと、何日くらい洗車していないことになるんだ?
戻ったらしっかり洗ってやらないと。

そんなことを考えている間にも、どんどん家に向かって引っ張られていく。
岩肌と白と深緑がだんだん大きくなって、大きくなって、大きくなって、
小さくなって
赤い波にさらわれて

……………… あれ?


 ◆  ◆  ◆


ぱちりとまぶたを開く。
一番に目に飛び込んできたのは、両生類のままのミニの顔。
それからいつもの、キャンプの素っ気無い天井。
カレイディアだ。というか目を閉じる前と何一つ変わっていない。

再び起き上がった私たちを見て、召喚士と巫女も訝しげな顔をしている。
いやその、訊きたいのはこっちなんだが。

しばらくして、何かを探るような表情をしていた召喚士が
気の毒そーうに言うには。
私とミニの元の身体は、向こうの世界で発生した何らかの要因によって
跡形も無く消滅してしまっていた とか


ええええええええええええええええええええ。


 ◆  ◆  ◆


魂がカレイディアに来ている間、空っぽの私たちの身体は
召喚士の力で生命維持や保護が行われていたそうなのだが、
あまりにアレなケースに見舞われると、対応しきれない場合もあるらしい。
すると、まぶたの裏に見えたあの赤い波は……
山が噴火でもしたのだろうか。そういや最近地震も多かったからなあ。

召喚士は珍しく、ばつが悪そうにしていた。
ついでに巫女はいつもと同じくわたわたしていた。
私も最初こそ激しい脱力感に襲われたが、
前向きに考えれば、逃げ場の無い状況で噴火に巻き込まれて
ミニ共々消し炭になるはずのところを、魂だけでも救ってもらえたのだ。
むしろ、割と恩人?


身体を無くしてしまうほどの大事件に遭遇しても
まあいいか、で済んでしまう自分をなんだかなあとも思うけれど、
私の中枢は生憎、過ぎ去った出来事に対して
怒りを抱けるほど複雑には出来ていないらしい。
その辺はもう少し上位の奴でないと無理だったっけかな。

『英雄』という肩書きに相応しく、仰々しい武装がちらりと脳裏をよぎる。
奴らではなく私が喚ばれたということは、
もう他に生き残りは存在していなかったのだろう。
こんな量産型でも、最後の一人になれば英雄、ということか。
皮肉なものだ。まあいいか。


そんなわけで。
少し昼寝でもしたら、ミニと一緒に召喚士たちのところへ行こう。
お茶がてら、私たちのまだ知らないカレイディアの話を聞きに。
他に残っている英雄はいるだろうか。楽しみだ。

……しかしこうなってしまうと、先週までの日記で
すっかり帰る気満々でいたのが無性にこっ恥ずかしく思えてくる。
取引メイに見つかる前にこっそり破り捨てておこっと。うん。
Message(Personal)
取引メイ
「……こんばんは。メッセンジャーサービスです」
取引メイ
「メッセージは届いておりません」
依代の記憶保存
召喚士がやってきました。
召喚士
「あなたの記憶を貰うわ」
  • 依代名……機械天使の梯子
  • クラス……????????
  • 性別……不明
  • 年齢……大人
巫女ユミ?
「記録したぞ」
Message(Linkage)
最終選択
召喚士
「ここに残るのね」
召喚士
「わかったわ。アナタがここに居られるように、再構築させてしてあげる。戦う力はもういらないから、ゆっくりしているといいわ」
召喚士
「さあ……一緒に征きましょう」
ルチェル・ナーリオの意識はそこで途切れました。
その後……銀色の少女に付き添う姿があったとは、
また別の話です。
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