ユディの一週間

「最近、お説教の得意なあの方が居なくなってから、
別の意味での疲労の原因は解決されたわね。
…我々支援職にとって、残念な事ではあるけれど。

そう言えば今週から、検索権限を持たぬ方から
間接で調査依頼をお受けできるようになって、
他職の方々から見て使い勝手は改善されたかしら。
尤も、私の処の『司書』はいつもより、
暇を持て余すようになるのやも知れないわね」

「私の顔見知りの範囲で一人、実際はそれ以上よ。
黒衣の主を介さずにこの世界へ介入した為、
現状は実体を持たない筈だけれど、
それだけに動き回り易い側面を持つと思うわ」

「ええ、何せ館内の『仕掛け』は見透かされ、
賊の『仕事』が終わるまで誰一人、
その存在に気付けなかったと言うのだもの。
それだけ周到な相手なのだと知ればなお、
黒衣の主や貴女達の密かな協力も必要ね。
主の事情には関係がなく、公にも出来ない話ゆえ
何らかの方法で誘導するしか無いのが厳しいかしら」

「私達は今の処、黒衣の主との契約を果たし、
この世界に侵入した用向きを済ませた後にでも、
すぐに自身の職務へと戻るつもりでいるけれど…。
貴女の口ぶりからすると、この短い間に余程、
この場所へ愛着を持ったように見受けられるわ。
毎日が変化の連続で、退屈だけはしないものね」

「確かに、鏡からの写し身を倒す事は困難かつ、
心理面でも未だに慣れないものだけれど…。
私は、それとは少し違う事を考えていたわ。

我々の同胞、元々はあの男自身の同門である
カナデ女史の意思を操り、周囲を弄ぶような
回りくどい真似…それが非常に気に入らないの」

「結果的にその悪意の所為で、アナ女史が
何らかの理由で秘匿しなければならぬ
『禁じ手』を打つ直前まで追い詰められた。
トレハ女史の施策で事無きを得たものの、
結果如何では『自制無き学院』での悲劇を
繰り返す可能性も有ったのやも知れない。

故に、その行いは非常に赦し難いものよ」

「…だから、ここから先は私自身が望む戦。
誰ひとりの心すら救わぬ偽りの信仰に対し、
心の芯に宿した義憤を叩き付けるべく、
私は戦場へ赴き、持てる力を振るい尽くす」

「…長かったようで短かったわね。うん。
いや、これ以上長くとかまたカモノハシになるとかは求めて無いわよ？」

「え、遠慮しておくわ。ワタシはウタがヘタなのよ。歌が攻撃手段になる場所じゃちょっと…ね。
…ユディは？　あなたは歌とか得意な方なの？」

「最近はもうトレハさんに世話になりっぱなしね。思わずさん付けにするくらい。ただし悪鬼は除くけど。

…ええ。そろそろここの拠点も突破しておかないと…私達にとっちゃ死活問題になりかねないし。何とかして制圧前進しときたいわね……」