チェスの一週間

「いや……ちょこれーと自体は特に嫌いでも何でもないが、あれを食べてから悉く召喚士に避けられた覚えが、な」

「別に大したことではないだろう？
料理や製菓の類はレシピの手順さえ守ればそれなりに簡単なものじゃて。まあ、流石に本職の料理人には及ばぬが……」

「そういえば、何やら菓子に纏わる祭りが近いとも聞く。良い機会だし、チェス殿も駄目などと言わず何か作ってみたらどうじゃ？　人間、ちゃれんじ精神とやらは肝要だぞ」

「……どーと訊かれても、硬そうじゃな、としか……。

うむ。庇ってくれた事については先般言ったとおり助かったが、動き難くはないのか？　それは」

「しかし最初に見た時、何処の敵勢なのかと思ったぞ……（ぼそ）」

「え……まさかチェスの家族って、みんな大きな武器を
　軽々振り回せるような人ばっかりなの……？

（想像してみる。超マッチョな一家が巨大なハンマーで
　自宅であるはずの砦の壁をことごとく粉砕しては
　爽やかに微笑む映像が脳裏に浮かぶ）」

「壊すほうが向いてるって……
　……と、ときどきチェスが怖くなることがあるのは
　きっと私だけじゃないはず……うん。
　色々大雑把っていうと、もしかしてあれかな。
　お肉を柔らかくしようと思って叩いていたら、
　いつのまにか挽き肉になってたとか……」

「あ、そうだっ、もし良かったら
　今度私の世界の料理を何か作ってきてあげよっか？
　……って言っても、もしかしたらこの世界のものと
　大差ないかもしれないけど。
　……こっちにもおでんとかあるみたいだし……。
（目の前にある巨大なおでん缶を見つめながら）」

「……と、ところでずっと気になってたんだけど、
　そのおでん缶は…………えっと、食用？
　それとも新型の武器かなにか……？」

（まるで掃除機を前にした猫のように、
　じっと謎のおでん缶の様子を窺っているミコト）」

「（お姫様だっこの形になって）
　――って、うあわゎわっ、な、なんでこの体制？！
　あぶっあぶっ！　あわわっ！

（わたわたしてたらバランスを崩しそうになったので
　とっさにチェスにしがみつき、
　より一層一人でテンパっている）」