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Diary | ||
僕の旧友にカタリーナという女の子がいた。 彼女というのは、普段は他のクラスメイトとなんら変わらないのだが 一つだけ奇妙な癖を持っていた。 「アビー、ロレンス、ティナ、マルチナ…」 彼女は『これから食べるもの』に名前をつける。 その段階を踏まなければ、どんな切羽詰った状況でも決して物を口に入れようとしない。 アビー、と名づけたパンをちぎり口にはこぶ。 ロレンス、と名づけたスープをすする。 ティナ、と名づけたポテトをほおばり、 マルチナ、と名づけたミルクでながす。 周囲は彼女を狂っていると言った。 もう、切れる寸前なんじゃあないかと言った。 あの行為が彼女にとってどんな儀式的意味合いを持っているのかは知らないが、 ともかく僕はよすがのあることの重要さというのを知っていたから 存外ここにいる誰よりも彼女は強いのではないかと思っていた。 この環境に身をさらし、トゲを抜かれず心を歪められず、命を奪われないで生きていくには こうした心のよすがというものがとても重要だ。 僕は集団に溶け込みながら 自分だけが距離を取り周囲を観察をしているのだという、一種のおごり、その自己認識で心を支えていた。 このからくりさえ解き明かされなければ僕の心は決して折れることがない。 カタリーナのからくりは目に見えてはいるが、誰かがそれを邪魔するわけではなかった。 ---- 「サソリ君、おはよう」 サソリ君の顔はこちらを向いたが、いつものようにだんまり、 顔色もわからず、そこに仁王立ちしている。 この間ガゼル君達といたところよりもずっと高い丘でサソリ君は一匹地平を見ていた。 「もうトカゲに挑戦しようっていう子がいなくなってしまったから。 そろそろ君の番じゃないかと思って」 サソリ君は黙っている。 「…本当言うとね、僕は少しだけみんなより猫の体の構造について詳しいから、 君が話せることを知っているんだ」 サソリ君の喉は確かに毒にやられている。 けれど、それは声を出せないほどの重傷ではなかった。 サソリ君は慌てる風でもなく、少し考えて僕の方に左手を差し出した。 拒否の意味?いや、もしかしたら自分で自分が話せないと思い込んでしまって― 僕の思考と言葉とをさえぎったのは、聞き覚えのある、余り好きではない がらがらの明快なあの声だった。 「オイ!くそけんじかよォ、決闘に水をさすきじゃあねェーだろうなァ!」 「うん。話の途中だったけれど、トカゲ君が居たんじゃまともに会話は出来ないねえ。それじゃ、僕はこれで」 「トカゲ」 僕が別の動物に化けて戻ってくると、二匹は一定の距離を保ってにらみ合っていた。 効きなれないしゃがれ声は、サソリ君のものだ。 やはり毒に喉をやられてはいたが、喋れる程度だった。 「お前の悪乗りの中でも、一等たちが悪いぞ」 「悪乗り?きまぐれ?そんな風に思いてェなら思ってろよ。 オレ様は本当にボスになるのさー!ニャッハッハ」 「ふざけるな。お前がボスになりたいわけがない。 お前はのらは嫌いだ、秩序が嫌い、暴力以外の力が嫌いだ」 「もうろくヤロォめ。テメーこそおっかしいんじゃねえの?支離滅裂だぜぇ。 他のやつなら良くてオレ様がボスに名乗りでたら潰しにくんのかオーイ」 「そうだ。タカが帰ってくるまでどの猫がボスになろうと俺達は受け入れる。 だがお前だけは別だ。お前ははなからのらを潰す為にボスになろうとしている」 「いい加減目ェさましやがれ!!」 いきなりトカゲ君が激昂した。 彼のこんな余裕のない声は初めて聞く。 トカゲ君は一人でその場にのた打ち回り、息を荒げながら天を裂く声で叫んだ。 「ああああああ気色わりぃ気色わりぃ気っっっ色わりいぃぃぃぃ!! タカだって?タカは死んだ!おっ死んだ!まぬけにも死んだ!」 「タカは死んでいない」 「死んだろ!?知ってんだろ!墓がある!オレが糞ひっかけてやった墓あ!」 「あの墓に骸はない」 「畜生ォ!いい加減にしろォ!!」 トカゲ君はとうとうサソリ君に飛び掛る。 サソリ君はそれを素早くかわし、着地に力を使っているトカゲ君の背後を取るが、 さっと 元のように一定の距離をとって構えなおしただけだった。 「のらなんか!のらなんか!オレがぶっ潰してやる! オレがこんなもんメチャクチャにしやるんだ!!」 「トカゲ、なぜ解らないんだ。猫にとって、どうして生きるのが本当に良いのか」 「殺してやる!」 トカゲ君が毒ナイフを引き抜き、サソリ君に向う。 サソリ君はやはり対して労せずとん、とんとそれを避け、 振り返るトカゲ君の横腹を蹴った。 トカゲ君は今度は着地に気を払わず、飛ばされながら瓶型の毒をまいた。 サソリ君は2,3歩程下がってそれを避け、 トカゲ君は体制を気にしていなかったため予想以上に飛んでしまい崖淵にぶら下がる事となった。 「トカゲ、なぜ解らないんだ。気高く生きるということが。 俺は気高く生きたい。タカは俺たちの希望の星だ」 「わかっちゃねェのはアンタだろォ! タカじゃねえか!アンタから気高さを奪ったのはタカじゃねえか!アイツのせいで!のらのせいで! 牙は!爪は!価値感すら!抜け殻かよォ、畜生、抜け殻かよォ」 「トカゲ、俺の価値感はタカだ」 「うるせえうるっせえ、タカは死んだ!タカが死んだから、アンタの目が覚めると思ったのに、 畜生、オレがのらなんかぶっつぶして、今度こそ…くそっ、引き上げやがれ!オレがアンタの目を…」 サソリ君は、僕を見るときと同じ。仁王立ちして、顔色を変えず黙って見下ろす。 トカゲ君はきょとんとして、次の瞬間見るも痛々しくあわてはじめた。 「おい!聞いてんのか、引き上げろ、オレは前足の力が弱いんだ、知ってるんだろォ、オイ、オイ!」 サソリ君は黙っている。 「おい!おい!おい!」 「けんじ!どぉーせテメエどっかで見てんだろ!おい!何ぼさっと!」 「おい、おいおいおいおいおいおい!」 「ハ…」 「畜生!!ちくしょおォォ見殺しにしようったってなァ!ハ、ハ、ハ、ハ…」 トカゲ君はそのまま崖から落ちていった。 無駄な努力だとしても、反射的に受身を取ろうとしてしまうらしい 空中で四つんばいの形をとったまま、崖下の尖った岩にぶつかって彼ははじけた。 僕はハゲワシのつばさを広げ、すぐに彼の元に駆け寄る。 (「ハ、ハ、そうはいくかよォ、そうやってオマエは、 オイラをエサに、オマエだけにげようって気だろう」 「とまれ!はしるな!」 「見殺しにしようったって、ハ、ハ、ハ」) (あいつはことあるごとに、自分を見捨てる気だろう、と言った。 俺はそれがいつも不思議だった。) 赤塊のトカゲの元、何か音がしたような気がして崖の方を見上げると 風も無い中、地面に垂直に一滴のしずくがおちる。 滴は僅かな光を受けて金色に輝き、あっ、というまにそのまま真っ直ぐトカゲ君の血だまりに落ちた。 こうして山猫の血は途絶えた。 僕はサソリ君とトカゲ君の間に、本当はどんな絆があったのか知らない。 けれどきっと、トカゲ君はサソリ君の妄信に不健全さを感じていただけだったのだろう。 かつて大きさに一番の価値を見出した猫のように、 ガゼル君やサソリ君はタカ君に一番の価値を見出している。 自分にとってのすべてのものの価値が他者だというその人生が、どういう具合なのか僕にはいまいちわからない。 それが健全なのか、不健全なのかも一口には言い辛い。 トカゲ君にとっては、それが気味悪かった。 トカゲ君はきっと、サソリ君に変わって欲しくなかったんだろう 自分の憧れだったサソリ君が、永遠に存在しない事を受け入れられなかった、のだろうと思う 僕は毒よりも、山猫の消滅とタカ君によって壊された兄弟の絆が彼を狂わせたのだ、と思った。 僕は昨日トカゲ君に殺されたヘビ君と、さっき死んだトカゲ君と、今死んだサソリ君のお弔いにつとめることにした。 ---- ある日カタリーナは授業中に、勢い良く教室を飛び出した。 とうとう彼女が狂った!と皆は戦慄する。 僕は固唾をのんで行方を見張る。 カタリーナは教室を出、そのまま校庭に出る。 彼女は花の道を駆けながら、左右の花壇に油やアルコールとマッチとを蒔く。 次々に花壇は燃える。彼女の足元に近い所は大きく燃え盛り彼女から離れた花は徐々に燃え尽きる。 両花壇の炎が赤いつばさのように彼女に映えていた。 幸せの青い鳥―なら、あの子はきっと、自由の赤い鳥だ。 僕は久しぶりにうっかりと本心からの笑みを溢してしまった。 僕は彼女がそのままあの獄門のような柵を抜け、外の世界へ飛んでいけるかもしれないと思った。 銃弾が2発彼女を貫き、彼女は死ぬ。 良く考えたら鳥なんてものは、鉄砲で撃たれるものの代表格だ。 僕はこぼした笑みを拾い上げ、ひょい、ぱく、少しすっぱく、 何よりもつぶれた銀杏の実のような不快な臭気に悲しくえづいた。 |
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今回の滞在 | ||||||
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Message(Personal) | ||||||||||
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Message(Linkage) | ||
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召喚士におねがい | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
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Ability Setting | ||
アビリティを装備します。
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Item Setting | ||
装備品を整えます。
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Skill Setting | ||
スキルを装備します。
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Schedule | ||
……
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Grow | ||
依代の浸透……
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Event | ||
『常闇の祭祀殿』に張られた結界が魔石を霧散させます……。
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攻略の時間になりました!! | ||||||||||||||
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