ユディの一週間

「…そうね。こうして戦いに明け暮れていると、
自分の好きな事や趣味も忘れてしまいそうになるわ。
メイ女史の拘りは狭く深きもので、私には理解し難く、
大事な場面に趣味を持ち込む事に感心もしないけれど、
何かに情熱を傾けられる事自体は、素晴らしい事よね」

「貴女のお察しの通り、彼も私と同じ手合いで、
厳密には、憑依の遣り方に慣れている事と、
憑依する事自体に抵抗を感じない事は同義ではないかしら。
私達にもその行動に踏み切るだけの理由は在れど、
結局、誰かの自由を拘束している事に変わりはないもの。

こちら側の世界では、依代となる方々の魂が
既に『彼女』の手によって抜き取られている都合、
彼らへの意思確認自体が困難なのが辛いところね…」

「試練と呼ぶには、些か、良からぬ恣意を感じるわね。
祭祀殿側が我々を受け入れた意図は判らないけれど、
でも、それ自体は些細な問題でしかないわ。
慢心という名の薄絹一枚に覆われた本音を暴き出し、
己の取った行動の浅はかさを悔やませる事など、
我々には造作も無い事を教えて差し上げれば良いのだから」

「これからもまた共に………いいえ、
今も、私達は共に戦っている事に変わりはないわ。
自分達の目的の為に最善を尽くす。きっとそれでいいの。

…貴女の心遣いに感謝を。大丈夫、既に傷も癒えたわ。
でも度々、異邦の刺客からの足止めが続くようだと、
今後の進軍の進捗にも関わってくるでしょうし、
強い敵だから、と勝てずにいる現状の看過も出来ないわね」

「学院を構成する建物、相対していた学徒達…。
それらの全ては『彼女』が、かの地に施した
『封印』の産物だったのだと、主から告げられたわ。
…そして、その中にはサチ司書も含まれていると。

先日、我々が藍の魔宝を奪還することで、
『彼女』がこの地に施した『封印』を解いた代わり、
縛られた魂は常世から離れ、全てが泡沫へと帰した。
残念ながら、私達の識るサチ司書が戻って来る事は無いわ。
今は、かつて彼女が管理していた書架が残るのみよ」

「でも、一部の支援職らは彼女が遺した書架の最奥に
何かが在ると信じ、日夜、智への研鑽を重ねているわ。

そして既に少数ながら、サチ司書と何らかの形で
接触を果たした方も居ると聞くわね。誰も居ない所で
ふと彼女の声を聞いたり、実際に遺品を託されたとも。
…尤も、調査に根を詰めすぎた所為で眠りに落ち、
自らの願望を夢に見たのやも…と言えなくもないけれど」

「まあ学院も消えちゃったしね…物理的な意味で。
建物が無ければお給料も出ない。つまり私も教師廃業ってことかしら。攻略戦的な意味でも」

「え、ええ…そうね…。ただあの魔石、沢山集めると爆発するって噂を聞いたんだけど…あの悪鬼は魔石を沢山貪り食ってるわよね？
大丈夫なのかしら…。まあそう簡単に消え去る悪鬼じゃないでしょうけど…」

「ただ卑怯な手段を使ったとして、それで負けたらいよいよもって笑いものよね。…それだけは絶対に避けたいわ。絶対に勝てる算段が無い以上、今動くのはいささか早計かしら…。」