『召喚士』からのひとこと(第24回)

「このマップの間、サチさんずっと余裕がなかったですね。裏で何かしていたみたいですが……」

「姿が見えませんね。風邪でも引いたんでしょうか。早く元気になってくれるといいんですが」

「ええ。今度会った時は、お茶でも出してあげなさい」

「そうですね。早く元気になってくれるといいのですが」

「まあとにかくっ、ようやくマップも中盤にさしかかりましたね！」

「次は常闇の祭祀殿ですかっ！」

「そうね」

「旧国教の総本山である祭祀殿は、その名の如く山の頂上にあるわ。元々は星図魔法伝来の聖地で、遺跡を改築していたみたいね」

「旧国教？」

「神を祀り、人心を掌握するためのものよ。今は力が無くなって、大半の神官は没落したみたいだけど」

「没落……あれ、なんか心当たりがあるような」

「生活力が無くなったら信仰を布教するどころじゃないわね」

「兼業でしか食べられなくなって、そちらの方が本業になっていくのよ。中には変な方向に目覚めた者もいたり」

「はあ……信仰って豊かじゃないとできないものなんですかね」

「でも大半ってことは、没落せずに残った神官もいるんですよね？」

「そうね。そういう彼らは潰しても消えないようなタフなものよ」

「今では祭祀殿に立ち籠もって、復興の機会を狙っているわ」

「復興……あれ、こっちにもなんか心当たりがあるような」

「それを志すこと自体は悪くないのだけれどね。祭祀殿が司る星図魔法は、カレイディア三大系統の一つ。彼らが祀る神はこの世界の異変と無関係ではないもの」

「常闇の祭祀殿ってのは、『常闇になった』だけでなく『常闇を祀る』という意味もあるのですね」

「信仰が完全ならば、この世界が闇に包まれることは無かったって言い分ね」

「でもそれを強行して、ふもとの街から人をさらって洗脳し、無理矢理に信徒を増やしている……なんて噂もあるわ」

「危ない組織……」

「面目ございませんわ……」

「トレハさんじゃないですか。面目とは？」

「常闇の祭祀殿はわたくしの実家がある所ですわ。まあ、大半は没落して神官を辞めていたのですが……あの、親戚の人間がなにやら怪しげな儀式を行なっているという噂を耳にします」

「あらら……その儀式って何なんですか？」

「祭祀殿の最奥にある魔宝を使ったものですわ」

「魔宝の制御権は祭祀殿にあり、その力を王城に貸与することで、祭祀殿は権力を得ているのです。ですから魔宝の研究はかなり盛んですわ」

「……それそも、それさえ無ければ」

「？」

「すみません、こちらの話でしたわ」

「祭祀殿の魔宝は王城とのコネクションであり、この国での権力に直結しているものです」

「その掌握を目的とする私達とは、あまり仲が良いとはいえないわね」

「そうなりますわね」

「結局戦うハメになりそうですね」

「祭祀殿が誇る『黄金騎士団』は、王城の正規軍と渡り合えるという、強力な軍隊ですわ」

「そうね。彼らを操るのは強力な魔術よ。魔法攻撃の対策は引き続き必要ね」

「うーん……今回のマップみたいな感じなんですか？」

「彼らが操るのは幻創魔法じゃないから、ハイファンタズムはあまり見かけないと思うわ。物理攻撃も充分に有効でしょうね」

「商人トレハ。アナタも道案内よろしく頼むわね」

「えっ、ええ……」

「どちらかというと、祭祀殿一帯に張られている結界の方が問題ですわ。強い魔力を秘めた外敵を退ける効果があるのです」

「外敵って、私たちですか？」

「特に魔力自体に効果があります……具体的には『魔石』ですわ」

「魔石？」

「結界はもともと悪魔をも呼び寄せるという危険な代物……結界は魔石を邪悪と見なし、浄化させるのです」

「……魔石が、この中では形を保てないということね」

「ええ……おそらくトレジャーは不可能でしょう。また、所持している物も危ないですわ。1週間で所持魔石の10％程度の消滅は覚悟する必要があります」

「長居すると魔石がどんどん無くなってしまうわけですね。あれ、トレハさん所の銀行に預ければいいんじゃないですか？」

「理由はよくわかりませんが、銀行の分も一緒に無くなるようです。封印しているのに……」

「うわー」

「それと、祭祀殿は元々一人で修行するための場所なのです。そのため仲間と一緒に行動しにくいという、少々変わった封印が施されておりますわ」

「具体的には？」

「『合言葉』が無効になる』とかですけど……」

「面倒ね。メイ、まとめなさい」

「はい」

「まとめました」

「以上です。ワールドマップからでも確認が可能です」

「……変なルールが多いですね。あんまり行きたくない場所ですね」

「それでも避けるわけにはいかないわ。油断せずに行くわよ」