「一揆」の終了から3ヶ月後・・・

青年は故郷に戻ってきていた。

妻を連れて。

少女が辺りを見回すと、なるほど、そこには緑溢れる光景が広がっていた。
トロッコのような魔道具で鉱石を運ぶ中年の女性、せっせと畑仕事をする壮年の男性。
・・・身も蓋もない言い方をすれば、田舎だった。

青年が両親に伝えたい事はまさに山ほどあった。

魔法剣士になるという目的の第一歩、サラマンダーというエンブリオに出会えた事。

ニスイという男に出会えた事、ポポロという神に出会えた事、社長と呼ばれた男に出会えた事。

一揆に参加し、山や湖や城を見聞した事。タンポポ荘で過ごした日々、そこで出会った人々。

そうした人々の助けがあって、戦乙女に認められるほどの魔法剣士になる事を成し遂げた事。

そして、冒険の最中、紆余曲折あってエンブリオだったサラマンダー、サリアと誓い合った事。

サリアのお腹の中に自分の子供が居る事。



全てを語り終えて墓地から戻った青年の顔は、とても満足気であった。



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青年が一人で住むには些か広すぎる屋敷。その客間で、青年のエンブリオ「ブラウニー」が紅茶を淹れている。

別れ際、ニスイと折半した資金はおおよそ10万PS。こちらの世界での通貨に換金して、20年は遊べる金額になっていた。

尤も、彼らハイランドエルフの寿命からすれば、それも僅かな間という感覚であった。

少女が青年をジト目で見つめる。

ニスイ。青年からは、彼は落ち込んでいるように見えたが、今は元気でやっているのだろうか。

ゆるやかに夜は更けてゆく。

未来へ向かう、穏やかな光を惹き立てるように。



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淡いドレスの影が揺れる。大きな影の傍らに座る。

月明かりが、静かな夜を照らしている。

そういってぷんすかと怒る少女は、微笑み方も怒り方もあの時とは違う。
火の精霊ではなく、エンブリオでもなく、青年と同じ、ハイランドエルフとしてそこに居る。

どこにでもいる　小さな火の精霊の物語

エンブリオとして契約し　心に居場所を求めた物語

心に居場所を求めたのは　エンブリオになったからだろうか

そうだけど　決してそれだけじゃない

小さな火の精霊には心が生まれた


少女は求め続けた　傍らに居ることを求め続けた

それはかわいらしい悪魔の手による結果だったけど

それはちゃんと願いを聞き届けた

少女にとっての二つの枷　火の精霊であり　エンブリオであること

それはほんとうにあっけなく　少女を解き放った


だけど少女はまだ生まれたての子供でしかなかった

だからまだ言えなかった

けれど

今なら言える

彼の故郷で　妻として　傍らに居る今なら

瞳を閉じると、2つの影が、1つになった。

―― Fin