一揆参戦56日目。

ニスイがケリをつけに行ってくる、と支度を始めた。
急な話だった。ここ数日、まるで無気力で、ただ日々を消化しているだけだったというのに。

社長にグッドボーイを貸し出した後、約束の日になっても社長からの連絡はなかった。
こちらからの連絡も全て無視された。

長かった一揆が終わる。そんな折になって、社長のエンブリオのフェアリーから連絡が入り、
社長の居場所を教えられたのだ。

ニスイの決意は固かった。
けどオレは、どうしても辞めさせたかった。
嫌な予感がしたんだ。

怖い。
ただ怖かった。
ニスイが、失われるのが怖かった。

声が、震えやがる。
怖い。

これじゃまるで泣き声じゃねえかよ。
情けねえ、狼の誇りは何処に行ったんだ。

……誇りか。
もう戦えないオレには、少しばかり背負うには重すぎるかも知れねえ。
ネクターの拒絶反応があまりに長引いたせいで、炎症が視力も嗅覚も奪ってしまった。

堰を切ったように、感情がこぼれだした。
目が熱い、焼けるように喉が痛い。
声が出ない、息が苦しい。
こんな気持ちになったのは、初めてだった。

そう言ってニスイは、社長の所へと去っていった。
最後に見えた横顔は、覚悟が張り付いていた。


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一揆終結の日。

タンポポ荘は今日も賑やかだ。
純粋に戦いの終わりを祝うもの、帰郷で別れを惜しむもの、新たな旅立ちに思いを馳せるもの。
皆の門出を、終戦の宴を。
いつもの馬鹿騒ぎだ。

庭で、ニスイの帰りを待つ。
目も鼻も効きやしないから、耳だけが便りだ。
だから少しだけ、悪く無いと思っていたタンポポ荘の馬鹿騒ぎが、今日だけは煩わしかった。

雑多な物音の中に、自分に近づいてくる足音を聞き取った。
ハッと顔をあげる。

アムフェイ。社長と同じく、一揆を共に戦った仲間だった。
ニスイがどうしても裏切れなかった、仲間だ。

しびれを切らしたのか、サリアが動く気配がした。

言い終える前に顔面に衝撃が走る。
固い何かがぶつけられたのだ、と気づくと同時に、バランスを崩し地面に倒れた。

ニスイの声だ。

……ああ、やっぱり
駄目だった、みたいだな。

治癒魔法でも治りゃしねえ。
大事な人を、大切な時間を、失われてしまった痛みは。

それでも、涙を振り払った。

それでもコイツと生きていく。
こんな理不尽な世界でも、嘘で現実を飲み込んで、生きていくと、そう決めた。


【BAD BOY END】