いつの間に、メグの胸から転がり出たのでしょうか。
アルの目の前に、白い欠片を伴って、青い石が転がっています。
そして、アルの手を借りて人形へと入っていくと、黒髪の人間の少女の姿を形成しますが。
人形が纏っていた燐光が消え失せると、黒髪の少女の身体は真っ黒な粘液のようなものへと溶けて消えてしまいます。
暗い地面に真っ黒な水溜りが広がり、試みは失敗したかに見えましたが。

べちゃり……、と音を立てて、水溜りから黒いスライムのような腕が現れます。
それはずるずると上半身を現し、やがて全身が這い出してきます。
一見すればその姿は怪物そのものでしたが、粘液まみれの黒い腕が、怪物の顔のあたりを拭うと、
黒い粘液のその下に白い肌が見えます。
そして、水滴をはじき飛ばす犬のように、頭をぷるぷると振ると、そこに見慣れた顔が現れるのでした。
真っ白な髪に病的に白い肌、くすんだ蒼い瞳。

服などは着ていないようにも見えますが、立ち上がった瞬間に、
身体に残った黒い粘液が、いつもの黒い服を形成します。

黒い怪物、正確にはミオの古い身体を一心不乱に突き刺すメグの方を見遣りつつ。
東の空は明るみ、すぐにでも夜明けが訪れるでしょう。

　クロエはメグから渡された服を見て、弾けるような笑顔を見せながら大事そうに胸に抱く。

とりあえずちょいちょいとアスタルテを呼ぶと何か一二言伝えるエル。
どうやら簡単なお使いを頼んだらしく、アスタルテはメグの元へとことこと
駆け寄り、深々とお辞儀をした。

そう言うと、差し出されたメグの小指に、自分の小指を絡める。

そうして、上下に軽く振った後、そっと指を解いた。

そう言って笑ってみせたのは、じわじわとこみ上げてくる涙を抑える為か――アマリアはハーブティーの入ったポッドに手を伸ばすと、自分のカップとメグのカップの両方に、茶の残りを注いだのだった。


――そして、アマリアの部屋でお茶会を開いた日から数日後…。
アマリアが元の世界へと帰る日が決まり、別れの挨拶をする為に、アマリアはメグの部屋を訪れた。

笑って何かを言い掛けようとするも――不意に視線を落とし、胸の前で組んだ自分の手を見詰める。

そしてメグの名前を呼びながら…思い切ったように、顔を上げた。
その頬に、一筋、透明な雫が伝う。

笑顔で、手を振る。
そのままスカートの裾を翻すと――
普段と変わらぬ足取りで、アマリアは歩き去って行ったのだった――……。



（最後の最後に長文失礼します。最後までお付き合い頂きありがとうございました！）

そう言うと、神妙な顔で下唇をかんだ。

しばらく沈黙し、