「お嬢様、私はおそらく長くは生きられません。既にいくつかの器官が動かず、ある程度自前の施術をしたところで意味は無かったことから、エンブリオに由来する蝕みと考えられます」
　その告白に、私は息を飲みました。
　レイスさんはやはり、わかっていたのですね。右腕の歪み……私が指摘するまでもなく、対策もとって。
　レイスさんはお酒を一口、口に含むと、僅かに微笑みました。
「もし今後何かしらの形で私が自らを制御出来なくなった場合、お嬢様が私を殺して下さい」
　ああ、ああ、レイスさん。
「この地を去ることになれば、避けては通れないでしょう。お嬢様、あなたが決めて下さい」
　普段のあなたならそんなことは言わないはずでしょう。
　もう、既に。ならば。
「……わかりましたわ。《疾く駆けよ》《蒼き馬》」
　あなたの言葉通りに。
　一瞬、気の抜けたような表情をするレイスさんに向けても、私は躊躇うことはありません。
「《七ツ星・揺光》。その右手……もうだいぶ、レイスさんを蝕んでいますわ。殺すしかないというのは、私にはわかりませんけど……」
　過つはずもありません。
「レイスさんがそうおっしゃるなら、そうしますわ」
　続けて三節の詠唱。レイスさんは満足そうに微笑んでいます。
「《翠風よ》《集え》《穿て絶槍》……おやすみなさい」

　緑色の魔法光がレイスさんを貫き、現世の柵から解き放ちました。
「……さて、どうしましょう。レイスさんがいなければ……私、道もわからないのですけど。とりあえず」
　救わなくては。誰かを。

　私は、救われなくてはならない誰かを探して、一人あてもなく荒野を行くことにしました――