旅立ちの準備は整った。

元の世界へと戻る扉は、今日の深夜か、遅くとも朝方には開くだろう。世界移動の手法はたくさんあるのだが、僕が所持している術式（魔術の得意な人に作ってもらったもの）は魔力の充填に時間がかかるのが難点だ。それでも、魔法が得意ではない僕に扱えるのは助かっているけれど。

地元のジャコーバラに戻ったら、ひさびさに母に顔を見せて親孝行をして、ちょっと休んでまた新しい世界へと旅立とう。他の世界には、まだ僕の知らない魔法生物たちがひしめきあっているはずだ。魔法生物の研究において、エンブリオという事象はほんの一部なのだ。

メルンテーゼに滞在していた期間は長かったような、短かったような。振り返ってみるとずいぶんとたくさんの人やエンブリオと出会ったものだ。メルンテーゼで得た知見は今後の僕の研究に大いに役に立つ、かもしれないし、もしかすると全く役に立たない可能性もある。が、いずれにしても僕の人生を豊かにしてくれた一部であることは疑いはない。

今度はどんな世界が僕を待ち受けているだろうか。願わくば、もうちょっと平和で、でもやっぱり刺激と魅力に溢れた世界であってほしいものだ。


さあ、次の世界へ！


…まではまだ時間があるので、街でエンブリオたちとぶらぶら遊んで最後のメルンテーゼを過ごすことにしよう。

一揆を終え、王城から離れていく人々の中に、
見覚えのある女性の姿を見つけたビブリオバベルは、
思わず駆け寄って声をかける。
……よく見ると、ビブリオバベルの髪の色や瞳の色が少し変化している。
あなたが興味をもって尋ねれば、彼女はその理由について、
照れくさそうに語るかもしれない。

ビブリオバベルは元気よく手を振って、その場をあとにした。