ルルゥロの柔らかな天色の巻き毛をエンブリオの小さな手でそっと梳く。

呟くと、ルルゥロはどうしたんですか、と笑う。

その笑顔も口調も、戦いを知らぬ同年代の少女からすれば大人びたものだろう、少なくともクイーン――ジャクリーン、いや、ジェイスの知るこの年頃の娘は、触れるに戸惑うほど儚く、けれど陽の光のような暖かで柔らかな笑顔でもって花冠を無邪気に編んだりままごとをしたり縄跳びに興じるものだったはずだ。
それがどうだろう、ルルゥロだけではない、共に戦う幼い少女達のなんと力強いことか。

可愛らしいものはか弱いものとして無条件で守らねばならぬ。それはなんと傲慢か。
ルルゥロはそんな風になにやら考えているようなクイーンを見、小さく「んー、」と唸るとぱちくり瞬きをしてから、人形のように小さく美しいエンブリオの髪を撫でた。

だって、とふにゃり、年相応の笑顔になって。

ルルゥロの半身に醜く残る火傷の跡に、クイーンはハッとする。今でもまだ直視に耐えられないそれを、ルルゥロは悲しい顔ひとつもせずに自分に見せないようにと羽飾りで隠し続ける。これから年頃になれば自分の身を着飾ることも覚えるのだろう、しかしきっとこの少女はその頃に、己の醜い傷跡を悲しむのではなく、そこに至ってなお己の契約したエンブリオの美しさを称賛し敬愛し賛美するだろう。
一見なんの脈絡もないその歪んだ因果関係に、けれど眉を顰めるような輩はきっと無関係な他者だろう。少女の友人たる子供達はそれを自然のことと受け止めている。この子供達の周りに大人はいない。存在するのはエンブリオばかり。歪みきって、いっそ美しい関係性だ。ふ、とクイーンは鼻で笑う。

これで、幸せなのだ。

ルルゥロの背に負われたケースの口が勢いよく内側から開かれる。
そこからそろりと片足、もう片足。
現れたのは身の丈60cmほど、魔王エリエスヴィエラを模した精密な人形のようなエンブリオ。

ルルゥロがそっと血のように赤い花を差し出すと、女王は花弁を一枚そっと食む。
そしてするりと一歩踏み出すと、その瞬間ルルゥロの背をゆうに超える成人男性と同等の身長に変化していた。