いのちは『Maker』のなぞをおってたびをしてきました。

たどりついたせかいで、じぶんとおなじ『はぐれ』とであいました。
かれはこのせかいにただひとつねむっていた『Maker』をみつけたものの、かびにおかされていました。
ながいたびのすえ、『Maker』のしんじつにたどりついたかれでしたが、ほんのわずかなゆだんからひざにかびをうけてしまったといいいます。

おかしのかびは、にんげんにとってのがんさいぼうにひとしいのです。
すでにあちこちにてんいしていて、たすかるすべはないようでした。

ひさかたぶりにまみえるどうほうに、かれははなしてくれました。
いしをもつおかしをつくりだす『Maker』とは？


「いいかい、Makerはじゃあくなものなんだ。
それはとおいとおいうちゅうのかなた、ぼくたちのそうぞうもつかないこうどなぎじゅつやまほうをあやつるものたちがつくりだした、むせいぶつにぎじせいめいをあたえ、そのほしのせいぶつをくちくするためのしんりゃくへいきなんだよ」

「ぼくたちのほしにも、かつて、にんげんのれきしがはじまるよりもずっとむかし、ほしのいきものをみなごろしにするためにたくさんおくりこまれていたんだ」

「だけどかれらのかんきょうと、ぼくたちのほしのかんきょうがあまりにもちがいすぎたのだろうか。
それともほしにとうたつするまえに、なにかあったんだろうか。
ぼくたちのほしにおとされたすべてのMakerはこしょうしてしまって、ほんらいのやくわりをはたさなくなってしまった」

「Makerをつうかしたむせいぶつはほしにすまうあらゆるいのちをぞうおして、はげしいさついをいだくようになる」

「ぼくたちのほしにおちたMakerは、たべものにいのちをふきこむちからがあるようだ。
ぼくたちをつくっていたきかいにとりつけられていたのをおぼえているね？
Makerはそうやって、たべものをうみだすあらゆるものにとりつくんだ。
しょくぶつにとりついて、それがうみだすかじつにえいきょうをおよぼすよていだったのだろう。
Makerのえいきょうかでうみだされたものは、とてもとてもおいしそうにみえるようになる」

「そして、ほんらいならばそのしょくぶつからうみだされるかじつは、すべてもうどくをもつようになっていただろうね」

「おいしそうなみてくれと、おいしいあじと、みわくてきなにおいと、ほかのせいぶつといしそつうができる、それゆえのかんげんと。
それをもっていきものをゆうわくして、もうどくのかたまりをかじらせる。

だけどせいぶつたちもばかじゃない。
どうほうがぎせいになれば、そのたべものをたべなくなるだけだ、そうおもうだろう？

だからぎじせいめいがふきこまれ、みずからうごくことができることがじゅうようなんだ。
じぶんのいしで、むりやりにでもあいてのたいないにはいりこんで、ころすためにね」

「Makerからうみだされたものは、ほしのせいめいをころすことしかかんがえない」

「そして、そうやってあらゆるいきものがいなくなったとき、Makerはきのうをていしする。
そうすると、おくりぬしのところになんらかのあいずがいくんだろうね。
そのほしをしはいするために、かれらがとおいとおいたびをしながらやってくるんだ」

「なぜ、こんなまわりくどいことをしてほしのせいめいをくちくするのか。
それはぼくにもわからない。

もしかしたらそのものたちは、みずからまえにでてせんそうをすることができないぜいじゃくないきものなのかもしれないね。
こころがよわいのか、からだがよわいのか、あるいはそのりょうほうなのか」


はなしをきいたいのちは、しょっくでなりませんでした。
こしょうによってほんらいのもくてきとはちがってしまったものの、だれかにおいしくたべてもらいたいというきもちは、あまくおいしいこのからだは、すべてあいてをだましてころしてしまうためのものだったというのです。

『ぼくたちは、そんなことのためにうまれてきたの？』

おかしであるかれらは、みずからのからだをひつよういじょうにしめらせたりかわかせたりしないようになっているはずなのです。
しかし、いのちのめからはぽろぽろとなみだがこぼれては、すぽんじけーきにすいこまれていきます。
かれはかなしくてかなしくて、それをとめることができませんでした。

かびにおかされたはぐれはいいました。

「それはちがう。
もともとのMakerがどうあれ、それはぼくたちがうまれるずっとずっとまえのはなし。
いまのぼくたちはまちがいなくAOMORIのめいか。
Makerにつくられはしたけれど、いきもののいのちをうばうためのそんざいじゃない。
いきていることによろこびをかんじてもらうためのてだすけをするそんざいなんだよ」

「いままでも、これからも。
ぼくたちはまいにちをいきるひとたちへのひとときのいやしに。
しんあいなるひとたちへのおくりものに」

「おいしくたべてもらうことがぼくたちのそんざいいぎ」

「たべてくれるひとのえがおでぼくたちのすべてがむくわれるんだ」

「ぼくたちはにせもののいのちだけど、ほんもののいのちとひとつになり、かたりつがれ、これからもふるさとにのこる。
だってぼくらは『めいか』だからね」




やがて、いっきはおわりをつげ、いのちはきめました。
はぐれであるかれには、AOMORIにもどるしゅだんはありません。

であれば、いのちのおわりまで、たびをつづけ、おおくのひとにいのちのおいしさをしってもらおうと。
ぎじせいめいであるかれは、あとどれくらいいきられるかわかりません。
しかしくちはてるそのひまで、かれはまえにすすむことにしました。

じぶんのそんざいにぎもんをもち、はぐれとしてAOMORIをしゅっぽんしたものの、やはりじぶんはAOMORIのたましい、AOMORIのめいかなのです。
もうまよいはありません。

「……そうかい。きみもそうするんだね。
いぜんにあったはぐれのこも、そのまえのこも、おなじようにいってたびだったよ。
ぼくもそうしたかったよ。
かびにおかされさえしなければ……」

そのけっしんをつげにかびにおかされたはぐれをたずねたとき、かれはもう、ほとんどかびにつつまれていて、よわよわしいこえをしぼりだしながら、かなしそうにいうのでした。
しにひんしたかれは、かびがいのちにうつらぬよう、ものかげにかくれ、ひっしにはなします。

「これからきみは……どんなせかいで……どんなひとたちとであい……どんなひとたちにたべられて……えがおをうむのだろう。
きみたちがうらやましい……」

「ぼくはしんじつとひきかえに、いのちとしてのみらいをうしなってしまった……。
だけどそのことにこうかいはない……いま、きみがそうであるように、ぼくもいのちとしてのほこりをとりもどすことができたのだから……。

だけどどうかおねがいだ……どうかぼくのぶんまで……どうか……」

それっきり、ものいわなくなったはぐれに、いのちはやくそくしました。
『きみのぶんまで、おおぜいのひとたちをえがおにしてみせるよ！』と。





そのひ。
AOMORIのよぞらにはりゅうせいがいくつもふりました。
HIROSAKIのうつくしいおしろのうえを、むすうのながれぼしがとおりすぎていきました。

いつもはそうこや、みせのたなや、いえのとだなでねむっているいのちたち。
しかしそのひは、そとにでたり、まどごしに、そらをみていました。
いっことしてくちをひらくことなく、しずかに、じっとそらをみていたのです。


じんこうのしまにいたいのちも。
せるふぉりーふにいたいのちも。
せいれいせかいにいたいのちも。
ざんぞうりょういきにいたいのちも。


りゆうはわかりません。
ふしぎにおもったこうじょうやおみせのひとたち、いのちをかいもとめたひとたちがたずねたものですが、それにこたえるいのちはいっこもありませんでした。







はぐれのいのちは、なかまたちにわかれをつげ、たびにでることとなりました。
ながくいっきをともにしてきたひとたち。
あくしゅができないので、みんなにじぶんをたべてもらいます。

そのとき、きがついたのです。
このなかまたちとであったのは、ぐうぜんではなかったということに。

かのじょはじぶんとおなじであったことにきづいたのです。

なかまのひとりにむかっていいました。

『そうか、だからきみはぼくをここへつれてきたんだね？』

Makerからうみだされながら、Makerのいしとはことなるみちをすすむもの。
それにひきあわされるために。

なかまはなにもいいませんでしたが、いのちはとてもまんぞくでした。
じぶんはこれからも、どうどうといまのまま、だれかにおいしくたべてもらいたいというきもちのまま、あゆんでいけばいいのだと、つよいじしんをもつことができたのです。



いのちのあたらしいぼうけんがはじまりました。
まずは、さそってくれたおともだちといっしょに、そのこきょうをおとずれて、いのちのおいしさをしってもらうことからすたーとです。

まだみぬところはどんなところで、どんなひとたちがどんなかおでいのちをたべてくれるのでしょう？
それをこころからたのしみに、いのちはうたうようにかろやかにいってしまいました。






きょうもたくさんのいのちたちがつくられ、そしてえらばれたいのちがいせかいへとわたっていきます。

いのちのおいしさを、よりおおくのひとたちにしってもらうために。

AOMORIのほこるりんごのおかしをすきになってもらうために。




そしてそこでであったひとびととのおもいでをいっぱいつめこんで。
またあたらしいせかいへたびだつのです。
それをくりかえし、くりかえしつづけるたびに、いのちはどんどんおいしくなるのです。


やがてつくられたいのちがつき、ものいわぬかけらになる、そのひまで。











そうしてどれくらいたったでしょうか。

あのはぐれのいのちは、いま、どこでどうしているのでしょう。

まだめるんてーぜにいるのでしょうか？それともまったくべつのせかいにたびだったのでしょうか。

くちてきえてしまった？そんなことはありません。


かれはどんなせかいで、どんなひとたちにであおうと。

いつものようにいうのです。

おおきなこえで、げんきよく。

いままでも、そしてこれからも。